隠れてていいよ

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アニメーション映画『薄暮』を見てきました

アニメーション映画『薄暮』を見てきました。

www.hakubo-movie.jp

ネタバレがありますので、未視聴の方はお気をつけてください。



はーっとなった

とても短い作品でした。チケットを取るときに上映時間が分かってしまったので、ある意味ネタバレしてから見てしまった感はありました。
私が本作品の事前情報として知っていたのは、以下2点でした。
・本作品がクラウドファンディングを利用して作られた、山本寛さんの作品であること
福島県を舞台にした作品であること

つまり、ほぼ何も知らずに見に行ったのですが、見終わった後の感想は、なんというかきれいなものを見たなというか、素敵なものを見たなという感覚でした。
作品全体を通してそれを感じたのはもちろんのことなのですが、キャラクターの1つ1つの動作が丁寧で、そして自分はやはりこういった丁寧な仕事が好きなんだなと改めて感じました。

具体的には
・雉子波祐介から突然声をかけられ、バス停のベンチから立ち上がった瞬間にスカートのシワを手で直す小山佐智の仕草
・文化祭の演奏終了後、礼をするために立ち上がった瞬間、一瞬ふらついてしまうけれども持ち直す小山佐智の描写

特にこの2つの描写は、見終わってからもまだ脳裏に焼き付いているぐらいです。
もっと具体的に話すと、まず前者については、これは特に私は目についてしまうのですが、やはりスカートの描写はとても重要だと思っていて、このブログでも何度か取り上げたように手抜きがされやすい描写です(重力スカートなど)。
thun2.hatenablog.jp


座っていたらスカートにシワがよる、だから立ち上がったらそれを直す、という動作は、ことアニメーションにおいてはなくても成り立つため多くの作品ではそれほど重点が置かれていない描写かと思います。
なんだけども、どんなキャラクターなんだろうか、その女の子はどういうことに気を使ったり考えたりするのか、などを感じるときの要素としてはとても重要だと思っています。
つまり何かというと、この描写を入れてくれるだけで、私はとても安心するんです。あぁ、愛が込められているんだなって。作品に、そしてキャラクターに。

後者についても、これがリアルに描かれている作品は結構少ないんじゃないかと勝手に思っています。本当にすごい一瞬なんです、座って演奏して、なんとか上手く演奏しきって興奮冷めやらぬ中、先輩が礼のためにみんなに立ち上がろうと無言で合図をして立ち上がった瞬間、おそらく緊張と興奮などで頭がのぼせ気味になっていて、ほんの一瞬ふらつくんです。

一瞬のふらつきって経験がある人も多いと思うんですが、これをちゃんとアニメーションとして描くって本当にすごいことだと素人ながらに思うのです。
こういう描写されると、すっごく感情移入してしまうんですよね。あ、リアルだなって、そこに等身大の人間が、女の子がいるんだなって。

こんな描写を見せられると、山本寛さんにはやはりアニメーションを作り続けてほしいと切に思ってしまう。

ストーリーはどうだったか

「はーっとなった」っていうのがある意味すべてを表しているのですが、なんというか、色々考えながら見させてくれる、描きすぎない感じがとても好きでですね。
もちろん、ストーリーとしては一本道ではあります。なんだけども、徐々に主人公の二人が不器用ながらも心を通わせていく様は、遠すぎず近すぎずの絶妙な描写が続くため、ずっと見守っていたくなる素敵さがありました。

二人の関係性の描写という意味では、いつも分かれる駅のホームを挟んだ二人のシーンがとても好きでですね。
カメラが引いて、向こうから電車が走ってくる中、左に雉子波祐介、右に小山佐智がただ描写されるだけなんですが、それだけでなんか二人のリアルな空気感が伝わってくるといいますか。
多分、二人は好意を持っている、でも直接言葉にはしていない。顔を赤らめたりする分かりやすいシーンもあるものの、全体を通しては「二人が毎日ホームを挟んで帰っている」という描写にとどめているのがとてもいい。

そういった描写に加えて、雉子波祐介を演じていらっしゃった加藤清史郎さんの演技がとても素晴らしかったので、ますますストーリーにのめり込んでしまってですね。
何度、共感性羞恥を感じたことか。
ただのクールなちょっといけ好かない男の子なのかと思いきや、とても真面目で、真面目に相手のことを考えることができて、勇気を出して伝えることもできるけど、高校生のような若さも見えて、ちょっと不器用っぽくて、でも真剣で……こういった人間性が、演技から分かってしまうのが本当にすごい。

二人のリアルがそのまま描写されていて、それがとても心に響きました。
震災を経験したことで風景を残しておきたいと感じている雉子波祐介、震災以後周りから距離を少し置きながら生きている小山佐智……そんな二人が薄暮の景色にて出会い、運命をともにしていくというのはとても素敵なストーリーだなと。


これ以上文章にすると安っぽくなるのでやめておこうと思うのですが、この感覚はやはりその目で見ないと分からないと思うので、是非映画館に足を運んで見ていただきたい。
上映館は少ないようなのでそんな簡単に見に行けない方もいらっしゃるとは思うのですが、機会があるのであればぜひ逃さず。