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『境界線上のホライゾン』から考える、原作付きアニメについての一考察

境界線上のホライゾン、1期最終13話「境界線上の整列者達」を先日視聴し終えました。既に第2期放送が2012年夏に決定している本作品、原作1巻は上下巻に分冊されていますが、1期ではこの上下巻がアニメ化されました。
私は、アニメ12話を見た後に原作1巻を読み始め、最終13話の視聴前に読み終えました。




読み進める中で、いかに素晴らしいアニメ化だったかを思い知らされました。何より原作からアニメに再構成するに当たり、イベント単位という括りならば、感覚的には9割5分以上、再現されていたからです。このイベントがあって、次にこれがあって、次にこれがあって…という流れがほぼ完璧。読み進めるに連れて「あぁ、あのシーンか。おぉ、あれだあれだ」とアニメの映像が脳裏に浮かんできました。
もちろん再現されていたからイコール素晴らしいというわけではなく、文章を文句なく映像化できている点、これが素晴らしい。キャラクターの細かな言動・状況説明、スケールの大きい設定説明(各国の立ち位置、敵対・有効関係)に始まり、術式や電子媒体物の映像化方法(空中に描かれる表示枠など)、そして迫力あるバトル…、アニメから入って原作を読んだ私でさえ(私だから?)、アニメの良さを(も)理解することができました。


原作はもちろん「文字」ですから、活字独特の言い回し・文のテンポ、そして文字からの想像力を楽しむことができます。では映像化したアニメは活字の良さを殺しているのかというと、そういうどっちか一方という話ではなく、前述したように綺麗に映像化できていると私は感じました。
良い原作付きアニメに出会えると、「原作は原作、アニメはアニメ」という想いに肩入れしたくなります。どちらも楽しいし、どちらかが駄目なんてことはない。


とはいえ12話を見終わってから原作を読み始め、最終話を見る直前に原作を読み終わったものですから、記憶が新しいうちに即最終話だったわけで、最終話では無意識的に原作比較をやっていました。


ここからは、最終話の一部シーンについて原作比較を行った後に、原作付きアニメについての一考察を行います。なぜこの記事において原作比較を行うかについては、その後の論に繋がってきますので、よろしければ一読下さいませ。
ただ、最終話のネタバレがございますのでご注意下さい。

こんな所にこだわるの? こだわるから原作熟読者なのである

K.P.A.Italiaの戦艦「栄光丸」を、大罪武装“悲嘆の怠惰”を用いて吹っ飛ばしたホライゾンとトーリ。その後、武蔵の輸送艦はステルス航行へ移行し、物語は一旦は休息に入ろうかという場面。教師オリオトライと学長である酒井の二人が後悔通りを通る時のことです。
突如、目の前に現れる二境紋(血で書かれたような赤い魔方陣のようなものと文字)。そして間髪入れず、P.A.ODAの戦艦が武蔵の輸送艦上空を通り過ぎる。


この一連のイベントシーンにおける、オリオトライの描写のされ方が原作とアニメでは全く違います。原作を元に順に説明します。
まず、公主隠しが行われた時に残されるという謎の模様、二境紋。この二境紋の登場は、一息付いた我々を一気に恐怖に叩き込みます。それはオリオトライの描写によっても分かります。原作から引用します

境界線上のホライゾン1〈下〉,pp757.

「血……?」
それは通りの半分ほどを占める大きさで、円を基礎とした模様と、文字を書いていた。
オリオトライは、酒井の横で息を詰め、反射的に長剣の柄に手を当てた。

この緊迫の場面の後、直ぐにP.A.ODAの戦艦がやってきて、その際にもオリオトライの描写があります。

同書,pp758.

ああ、と酒井が頷くと同時。いきなり、空中を音が走った。
犬の遠吠えを大きくしたような音は、全艦に響き渡る警報だ。
はっとしたオリオトライが長剣を鞘ごと背から持ち上げると同時。


オリオトライというキャラクターは、この一連のシーンの直前に、酒井学長から経歴不詳な部分に軽く探りを入れられているのですが、まあ謎の強さを持つ謎キャラなわけです。そんな彼女でさえ、エマージェンシーモードに入らざるを得ない程の事態が同時に2つも起きた。しかも両者によってオリオトライの警戒度の描写が違うことがお分かり頂けるでしょうか。

というふうに、非常に僅かの文字描写ではあるものの、オリオトライの「謎さ」と強さと、そして緊迫感が伝わってくる素晴らしいシーンなのです。


このシーンがアニメではどう描かれたかというと、二境紋発見からP.A.ODAの戦艦登場まで、オリオトライは長剣を鞘ごと持ち上げるどころか、柄にさえ触れません。
これはおそらく、原作を再構成するにあたって意図的にカットされたシーンだと思われます。もちろん大事なシーンではあるものの中核シーンではないわけで、尺の関係上、泣く泣く削られた、あるいは再構成されたと推測できます。

何が疑問なのか

実はアニメだけ見た層にとっては、何てことのないシーンなわけです。ですが原作既読者の中には、上で指摘したようなところに気づく人も出てくるわけです。さっきのカットされたシーンを見て、「オリオトライの良さが全然描写されてないじゃないか!」と主張する原作既読者が居てもおかしくないわけです。というか私です。


ここが、原作既読者とアニメだけ視聴者の違いであり、そして原作付きアニメの難しさなわけです。
アニメとしては全く問題がない構成になっているんだけれど、原作既読者にとっては「納得が行かない部分」がどうしても発生してしまう、という問題。物語の中核でない部分でさえ(部分だから?)、しつこく追求されることがある。
この「納得が行かない部分」を原作既読者がしつこく追求し始めると、往々にして「原作厨」と揶揄されかねないのです。なんと、絶妙な受け取られ方トレードオフか。
圧倒的な作品愛から発生する「こだわり」、それを追求するばかりに「原作厨」と揶揄されてしまう可能性がある。歪んだ愛と受け取られかねない。
誰も中傷しようとして原作比較をしているわけではないんですよ。

完璧は無理

十把一絡げにまとめるつもりはないものの、前述したような細部にまでこだわりを持つ傾向があるのが原作既読者だと私は思います。ですが、原作をアニメ化するにあたって、完璧にそのまま、全てを映像化するわけには行きません。単純には1クール2クール、1話2話という尺の制約があります。
原作既読者は、完璧ではないアニメ化に対して、どういうスタンスで臨むべきなのでしょうか。



以前、翻訳家の第一人者である戸田奈津子さんの翻訳について、通訳者で教授の鳥飼玖美子さんが、以下のようなことを仰っていました(参考:「英語公用語は必要か?」 ひろゆき×鳥飼玖美子 ‐ ニコニコ動画(原宿)、該当部分は64分40秒ぐらいから)。以下の埋め込み動画も同様(1:04:42)。



映画の翻訳作業というのは、映像を何回も見て綿密に考えられているのかと思ったらそうではなくて、僅か1回程度でダダダーと訳されていくのだそうです。そうしないと、多くの映画の翻訳作業が間に合わないそうなのです。さらに、日本語と英語による言葉の数の違いや、一行に何字という字幕の制約、喋る人のタイミングであったり…と、完璧はそもそも無理なんだということのようです。
だから、完璧でない場合があるのはやむを得ないのではないか、と仰っていました。大目に見てあげてね、と(以下の文字おこしは、前後の文脈によって受け取り方が微妙に変わってくると思いますので、可能であれば上の元動画を御覧下さいませ)。

――完璧でない場合があるという前振りを受けて。

ひろゆき「元々の、その映画の原作まで読んでますみたいな人と比べたら、やっぱりさすがにかなわないですよね」
鳥飼玖美子さん「原作まで読んで、そして映画をじっくり見てね、詳しい人って色々いますよね。そういう人から見たら、これは違うじゃないかって、それは出てきますけども、私としては大目に見てあげてくださいって」

もちろん、単純にこの考えを原作付きアニメにも当てはめようとは思いません。さすがに制作側に寄り過ぎではないか、と怒られそうです。
そうはいっても、監督、プロデューサーそしてスタッフが、原作を本当に本当に本当に本当に読み込んで、完璧にオタクになるほど読み込めるかといえば、やはり無理なのではないか。だから、私たちは、原作付きアニメにおいては、もちろん完璧を望みたいが、ある程度は「大目に見る」という「余裕」のようなものが必要なのではないか、とも思うのです。

じゃあ、その線引きはどこなんだよ…と言われると、そこが答えのでない、難しい問題なのです。だからこそ考え続ける意味がある問題だと私は思います。私自身もずっとこの問題を考え続けていますが、未だに悩み続けています。

もし否定側に寄りすぎているならば、制作側に歩み寄る。制作側に歩み寄りすぎているならば、少し批判的になってみる…そういうことが必要なんじゃないかなと、思います。



余談ですが、ひろゆきさんが出演するニコニコトークセションの企画は興味深いものが多いのでお勧めです。上、ニコニコ動画のリンクから幾つか辿れると思います。

終わりに

ホライゾン面白い! から始まり、中盤からは原作付きアニメの難しさについて考察しました。この問題は、原作付きアニメが有る限り、ずっとまとわりつく問題だと思います。そのたびに、ああだこうだ、議論すれば良いのだと思います。いつか、真理に辿り着くまで。

なお品切れ中だった初回限定版BD1巻は再生産されるそうです。怖いながらも、アマゾンでとりあえず予約しました。万が一konozamaくらった場合は、その時に考えようかなと思います。





1月23日に再入荷ということで、アマゾンから無事届くように祈っています。


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