隠れてていいよ

主にアニメや漫画の感想を書いています

漫画『宝石の国』先生は愛ゆえに苦しんでいるのではないか

漫画『宝石の国』7巻を読んだ方は誰しも考えたくなるのではと思う、先生について、そして先生の愛について考えてみたいと思います。
いつもながら7巻までのネタバレを含みますので、その点ご承知おきください。


先生の秘密

7巻で明かされた先生の秘密は、先生が秘密を敢えて隠しているということでした。
疑いを持たれていることさえも分かっていて、それでも愛していると言い張る先生の真意はどこにあるのか。


先生は隠すのが苦手である、そんな説明が何巻かのキャラ説明であったような気がしますが、それすらも演技だという気がしてきます。
先生は疑われ慣れているというカンゴームのセリフは事実のような気がしていて、のらりくらり交わすことが真実を上手く多い隠せると先生は思っているのではないか。

疑われ慣れている(7巻pp142より引用)


フォスのレベルまでブチギレた宝石が過去存在したかは分かりませんが、暖簾に腕押し、柳に風。
きっと冷静に問い詰めてもサラリと交わされてしまうのでしょう。


なぜ先生は隠すのでしょうか。
「おまえたちの安定と安全を優先している」という先生の言葉を信じてよいのか迷います。
何となくの勘ですが、この言葉には一部真実が含まれている気がします。

例えば、真実を聞くと宝石たちが道を踏み外してしまうようなことが発生するとか。
過去失った仲間を取り戻す方法が分かってしまい、皆が死に急ぐしょうなことをし始めるとか。
取り戻す方法はあるけれども存在を失うリスクが高すぎる方法である、とか。

もしくは、先生が嫌いになってしまうとか。


宝石たちの根底にある生き方や考え方は、先生への愛です。

先生を愛しているから(第2巻pp159より引用)


みんなずっと好きだ、とイエローダイヤモンドが思い出して言うくらいですから、遺伝子レベルで組み込まれているのではと思ってしまいます。
先生が宝石に教育を施しているはずですから、そういう意味での愛着を持っているとも言えなくはないのですが「大好きだから」という表現が簡単に出るのは、そのレベルを超えているような気がします。

先生から宝石への愛

フォスの「先生が大好きだから助けたいんです」の言葉を聞いた先生の反応は「驚き」でした。
この驚きの真意は説明はされていませんが、先生は自分が宝石に愛を注ぐことは合っても宝石から愛を注がれることは無いと思っていたのではないでしょうか。

敢えて隠しているという事実がある以上、先生は宝石に対して後ろめたさを持っている部分はあると思うのです。
そして、それが感づかれていることも十分に感じていると思うのです。

疑われているのに説明はせず、一方的に命令をしている状態が続いているわけですから、仮に遺伝子レベルの愛が組み込まれていたとしても月日が経てば薄れていく可能性もあるわけです。
それ故に、ちゃんと「好きだから助けたい」とフォスが改めて口にしてくれたことに対して、驚きがあり、そしてもしかしたら嬉しさもあったのかもしれません。

しかし、それでも真実は言えないのだ、と。

お前たちは

7巻で登場する、月人からの贈り物とさえ思える博士。
この博士の伏線はどこかにあったろうかと思い出していたら、第6巻で登場した遊び道具が気になりました。
フォスが無理やり持ち帰り、霧散せず残ったボードゲームのようなものです。

不思議なゲームっぽいもの(6巻pp160より引用)


このゲームに対して先生は
「このゲームは最初から特定の結果に至るように作られていない だからずっと遊んでた」「造った物の終わりまで考えてはいなかった そうですね?」

と語りかけるのですが、この「そうですね?」の解釈が当時できませんでした。
しかし、先生の博士への言動を見るに、もしかしたら博士に対して語りかけていたのかもしれないなと思いました。

誰に語りかけていたのか(6巻pp163より引用)

仮にボードゲームが博士が創った「本物」であれば、「消えてくれる」こともないのではということです。だから、消えてしまったボードゲームは偽物だったのかもしれないな、と。
月人たちが先生の元へ送り込んでくるものは、全て偽物なのではないか。それらは全て博士によって生み出されたものなのではないか。

先生は「消えてくれる」ことに対して「やさしい」という言葉を掛けます。
裏返すと、消えてくれないことに対してなにか苦悩や問題があったのだと推察できます。
それは、博士の研究に関することだったのかもしれません。


さらに仮説・妄想を飛躍させると、博士は分裂した魂・肉・骨を元の「にんげん」に戻すような実験を繰り返していたのではないか。
博士自身が「にんげん」かそれに近しいもので、「にんげん」を創ろうとした過程で生まれたものが例えば先生であるとか。

流石に最後の方は根拠が殆どないのですが、とは言え本物の博士がやっていた研究(研究をやっていたかは本当のところ分かりませんが、博士と言われるくらいなので)が、先生の心に何か思い出させることは確かなようで、偽物の博士と会ったときに偽物だとすぐに気づいたこと、そして「自分では壊せない」と吐露したところからすると、博士はとても大事な存在であることが分かります。

私はこれを壊す事ができない(7巻pp132より引用)

かつて地上にいた

フォスに問われた先生は、博士を始めとした月からやってきたものを「それらはかつてこの地上にいた私の知っている物とよく似ている」と答えます。
加えて、似ているだけなのか本物なのかは確証がないから「答えることはできない」と答えます。
そして博士とは何者なのかについては答えてくれませんでした。

確信に迫る問いに対して答えず、謝罪をし、さらに「おまえたちを愛しているよ」と返答した先生の本心はどこにあるのか。

ここからも仮説にはなりますが、「愛している」というとてつもなく重要な言葉をこの重要な問いに対して返したということは、先生と博士の関係も愛またはそれに近いとても親密で深いものであったことは推察されます。
先生と宝石は家族のようなものだと思っていましたが、家族以上の関係となると例えば親子や恋人のような推察ができます。

もしくは、先生自身を助けるために博士が命を落とすようなことがあったのかもしれません。命の恩人であるがゆえに、確証が持てない以上は適当なことを言う気にはならず、先生自身もずっと真実を探し続けて苦悩しているのかも知れません。
愛ゆえに悩まされる先生という構図は綺麗ではあるものの、宝石がそこそこ蔑ろにされているのも事実なので、正直なんとも言えないです。先生から宝石への愛は語られるけれども。
北斗の拳に登場するサウザーというキャラクターのあまりにも有名なセリフ「愛ゆえに人は苦しまねばならぬ」ではないですが、愛があったからこそ先生は今生きている、そして苦しみ続けている……そんなことがあるのではないかと疑ってしまいます。


この物語の根幹となる部分が先生、そして博士に隠されている気がします。愛がキーワードですね。

終わりに

これ以上の考察を行うとなると、1巻から全部読み返すぐらいが必要だなと思ったので一旦止めておきます。
時間が無限にあればそれもやりたいのですが、おそらく永遠に続きが読めないので。

いずれにしても謎が謎を呼ぶ7巻、非常に満足度が高い内容でございました。素晴らしいです。
いつもの、心動かされたシーンを語る記事を書いたらいよいよ8巻に進みます。