いつも読んでくださっている方にはお馴染みの、初めましての方にはご説明いたしますと、
漫画『宝石の国』の各巻について感情が動かされたシーン――1コマであったりセリフであったりシーンであったりイラストであったり――を巻頭から順に自分の感想を交えながら語っていく記事です。
7巻までのネタバレを含みますので、その点ご注意ください。
なお、初見感想記事で掘り下げた箇所については深く触れていないケースもありますのでご承知おきください。
thun2.hatenablog.jp
6巻までの同様の記事(並べてみると多くなってきたなぁという語彙のない感想):
thun2.hatenablog.jp
thun2.hatenablog.jp
thun2.hatenablog.jp
thun2.hatenablog.jp
thun2.hatenablog.jp
thun2.hatenablog.jp
表紙
綺麗ですよね。実質ラピス・ラズリの単独表紙というのがポイント高いです。
7巻までだと、複数の宝石がきらびやかに並んでいるものが多くて(3巻のフォスとアンタークチサイトが唯一例外)、もちろんそれらも好きなのですがシンプルにキャラクターが真ん中に位置している7巻の表紙も相当に好きです。
というかラピスラズリの髪色が好きなのかも知れません。
#3d62adな、この色です。
物理的脅し
フォスフォフィライトが目覚める確率を少しでも上げるためには、なじみがあり単純な素材が必要である。
故に、カンゴームは自身の首を差し出そうとする。
カンゴームはカンゴームでゴーストにかなり囚われていて……囚われているというと言葉が間違っているかも知れませんが、一時期フォスがアンタークチサイトに病的にまで苦しんでいたときを思い出すぐらいにはやばい。
何がやばいって、思考が単純に危ない方向に簡単に揺れ動くところですね。
「あ それって 俺の頭だ」とフォスのために首をもぎ取ろうとするまで1秒もかかっていないのがやばい。こんなんされたら、ラピス・ラズリの頭部を接合することを先生も秒で許しちゃう。
笑っちゃだめなのですがシリアスな笑いというか、先生の問いかけからカンゴームの首ゴキ、からの先生が阻止するための腕バキイの流れはゾクゾクしますね。
そして「バキイ」の文字表現の、「バ」の字の一画目の長さ加減がめっちゃ好きです。
ところでこのコマ含む前後の、カンゴームの細かな破片がきれいです(首ゴキする瞬間、このコマ、先生に抱きかかえられるコマ)。
黒背景の宝石の破片ってめちゃ映えますよね。こういう表現が好きすぎなんですよね。宝石の国の良さ。
目を覚ます可能性があるとは思えない穏やかな顔
接合手術直後の上半身の絵が、きれいなんですがとても怖いのです。
生死がよく分からなく、不安な感じなんです。
ラピス・ラズリの首が接合されるフォスの体は、元々意識がなくて首から下のみです。
この時点で「死んでいる」とも表現できるぐらいの状態なのですが、そこに意識がないラピス・ラズリの頭部が付けられるわけなんですが、ラピス・ラズリの表情は比較的穏やかな状態で目を瞑っているんですよね。
フォスもラピス・ラズリも意識を失って死んでいるような状態なのに、まるで今すぐにでも目を覚ましそうな感じを受ける。
亡くなった方が、棺で横になっているのを見ている感覚を覚えました。
現実では、棺に入られている方は残念ながら目を覚ますことがありません。私もこれまで、悲しいですが棺に入った方を何人も見てきました。
体に損傷などがない場合、全身のまま棺に入られます。穏やかな顔で眠られていると感じることが殆でした。本当に穏やかなんです。
本当に死んでいらっしゃるのか、すぐに目を覚ますんじゃないかと思うほどに。そして、絶対に目をさますことがないという現実に、とても悲しくなる瞬間でもあるんです。
ラピス・ラズリの頭部が接合されたフォスは、とても安らかな表情のように見えたものですから、もう死んでいるものかと思いつつも、この作品ではインクルージョンが存在しているため目を覚ます可能性が0%ではないという事実が重なりとても変な気持ちになったのです。目を覚ます可能性があるとは思えない穏やかな顔が、不安になりました。
「また夜に」
フォスが眠りについてからカンゴームは、毎日あったことをフォスの元に報告しにきているように見えました。
「また夜に」という台詞があることから朝に一度報告して、一日が終わった夜にまた報告しているのでしょう。
この報告は、フォスが目を覚ますまで毎日行われていたのではと思うのです。百二年間。
描かれていませんが、きっと。それを考えると本当に心動かされるのです。
行間を表現するのが本当に上手いと思います。
「はじめて でしょうねえ」
フォスが百二年の歳月から目覚め「こんな目覚めが悪いのはじめてだよ~」って呑気に言ったことに対するルチルの返答。pp35より。
ルチルの側にいたレッドベリル(ツインテール)とカンゴームを含めて、圧倒的ポカーン表情。
ただ、カンゴームだけは若干嬉しさな驚きが混じっているような気もします。
だるいなぁー、って感じのフォス(ラピス・ラズリ)の表情も好きです。
フォスだよ~
目覚めたフォスと宝石たちのやり取りがかわゆい。「わーい フォス~」「フォスだよ~」。
何度も記事で書いてきたことですが、こういう細かな、ちょっと抜いたコマを入れてくるのが本当に上手いと思います。
自己分析得意?
ラピス・ラズリから記憶の伝達を受ける中で、問いに対して逆ギレするフォス。
フォスは昔から「できないという事実が分かっている」という返答方法をするのですが、これが結構好きで。
開き直っているように見えて、自分をきちんと分析した上で分からないことを分からないときちんと伝えているとも言えるわけで。
自分が理解できなかったことを他人にきちんと聞けるという姿勢は、忘れないようにしたい気持ちです。プライドが邪魔しないように。
ラピス・ラズリの「あとは持続 深度 閃めきだ」の語感も良い。
フォスの切り替え
ゴーシェとモルガが月へ行ったしまったことを知った時、フォスは驚きすぐに冷静になりました。
驚いた顔を見せまいと切り替えました。
この切り替えの速さは、ラピス・ラズリの頭の回転の速さも寄与しているような気がします。
棒立ちになって一点を見つめてしまっているときの顔は、驚くと同時に瞬時に何かを判断し理解している顔に見えます。
私がそう見えるだけなのかも知れませんが、そういう解釈の余地を与えてくれる絵が好きです。
またまた対比
昔のモルガとの違いに悩んでいる、と生まれ変わったモルガに相談を受けたフォスが「一緒にいると楽し」いことに変わりないよとアドバイスするシーンのコマがとても綺麗で。
このコマは1巻のモルガの描写と対比・オマージュされています。
1巻冒頭のモルガの描かれ方が顕著で、モルガはどこかフォスよりも先に行くような描写があり、それがいつもコマの中で上下の位置関係を生んでいるんです。
フォスが物理的に姿勢が低い状態(四つん這いになっている)になっているからというのもあるのですが、モルガの登場シーンと回想シーンでどちらも低姿勢な描写がされるのは意図的だと思いました。pp75より。
そして何より、四十七話最終ページの1コマは、そのまま対比のコマです。百二年というタイトルがとても似合っているし、とても悲しいとても綺麗なお話でした。
あからさますぎると感じる人もいらっしゃるかもしれませんが、私は感動してしまいました。月が上に出ているのも、辛い。
百二年も経ってしまったこと、その間、目を覚まさなかったことでもしかしたら救えた二人がいたこと。
そのことをフォスが強く理解し、消化し、前を向こうとする……なんてきれいな話の締め方、繋げ方なのでしょうか。
これ以上文章で説明すると安っぽくなるのでこのあたりでやめておきたいのですが、この感動はぜひ漫画を読んで感じてほしいです。
エモすぎる。理屈じゃないです。
シンシャはもうね……
フォスが、直前に髪を切られてしまっているというのがあまりにエモくてですね。
シンシャとのこのシーンを描くための装置だとは思うものの、でもですね、流石にこのシンシャとのやり取りシーンは良い意味で鳥肌が立つ。
フォスが忘れるわけないじゃーんっていうね、そして真顔で言うフォスがフォスっぽくて本当良いよなぁと天丼気味なネタではあるものの、良いものは良いんです。
即落ち2コマじゃないのですが、本当分かりやすくてこの二人は大好きです。というか、やっぱりシンシャが好きなのかもなぁと登場するたびに思います。
シンシャはちょっと都合よく使われすぎていない? という声もあるのかも知れませんが、仕事を探してあげるというフォスの目的が作品の最後もしくはほぼ終わりかけのところで伏線として回収されて終わるというのが何となくの予想です。
許しの証拠
ウェントリコススの子孫であるところのウァリエガツスが仲間たちに認めてもらうために勇気を出して丘に来た、帰り際にそのことをフォスに話したときのフォスの対応がもう泣きそうですよ。pp156より。
パキン、とフォスが貝アゲートの足とフォス自身の境目を削り取ってウァリエガツスに渡すのです。
「僕なら 許しの証拠がほしいとこだね 貝アゲートの足と僕の境目の箇所だ みんなに見せたらいいよ」
このセリフ、マジで心に来る。フォスの優しさってこうなんですよ。「僕なら 許しの証拠がほしいとこだね」ってところ、脳内で再生されすぎて目から涙。
漫画だから再生もなにもないのだけど、自分の中でのフォスが頭の中でめっちゃさらっとかっこよく言っている姿が目に浮かぶんです。かっこよすぎ。
先代のウェントリコススのときも、許可されていない海にさっと入っちゃうんですよね。ウェントリコススを助けるためだけに。
2巻の以下のコマは本当に印象に残っていてですね。このあたりも敢えて対比というか、フォスという意識はこうなんだよということを我々読者に訴えかけてくる上手いコマなわけなのですが、それにしても良いですよほんと。フォス最高です。
なんて優しいのでしょう。優先順位に、ルールというものが殆どないんですよフォスは。自分の考えて正しいと思ったことをちゃんと進められるそんな力があるんですよ。
「弱っててひとりじゃムリだろ?」ってかっこよすぎません? マジで惚れる。フォスって優しさとかっこよさのバランスが神だと思うんですが、共感してもらえますかね……?
そしてその無意識の優しさが、7巻では解決への道を引き寄せたのだと思うのです。
「あー!」という大声とともに思い出したー! と叫ぶウァリエガツスの勢いと可愛さが半端ないです。カタルシスですよねぇ……ほんと話の繋げ方がうますぎる。
あまり引用しすぎるのもバランスが悪いのですが、この勢いめっちゃ好きなので引用させてください。
「あー!」のコマぶち抜きは表現方法は真新しいものではないのかもしれませんが、フォスの優しさ・これから先どうしようの不安……からの一発逆転! を表す勢いが見事に表現されていてスカッとします。きれいなコマ割り・ページです。
思考切替の速さ
ラピス・ラズリの頭脳が搭載された影響が強いと思うのですが、頭の回転が早くなったことで1コマでフォスの考えがまとまるシーンが多いです。
ゴーシェとモルガが月に行ってしまったことを理解したときや、先ほど紹介した体を削って渡したシーン、そして月へ行くという方法を確信に変えたシーン。
分かりやすいとは言え、こうやってコマできちんと表現して伝えてくれるのは良いなと思います。
シンシャはもうね……part2
月に行かないかとフォスに持ちかけられたシンシャは、行くなと大声でフォスに叫ぶ。行くなという強いシンシャの言葉は風が強くて聞こえず伝わらない。
もうずっとなんですよね、ずっとずっとフォスとシンシャは距離的にすれ違うのですよ。声が聞こえないこと多すぎ問題。
あまりすれ違いすぎると、ラブコメ鈍感系定番の「え、なんか言った?」問題に発展するので、フォスとシンシャにはそろそろ結ばれてほしいなと強く思います。
pp173より。
終わりに
書き始めると、この7巻はめっちゃ心動かされてしまったんだなぁと改めて思いました。
どの巻も好きなのですが、巻を進めるごとに伏線の回収が行われることが多く、それが綺麗で思わずため息が出てしまうほどなんです。
このシリーズ記事を書くときはその巻を当然読み直しているんですが、読み直しにめっちゃ時間がかかるんですよね。
読み直すたびに何か発見があったり気持ちが動いたりするので楽しいのですが、なかなか記事を書き終えられないというジレンマもあります。良い意味で。
というわけで、そろそろ8巻に手を出していこうかなと考えています。もしかしたらもう1記事くらい書くかもしれませんが、そうすると読む速度が遅くなりすぎるのでどうしようかは検討中です。
追伸:
はてなグループにランキング機能が追加?されたとのことなので、試しに参加してみようと思います。