隠れてていいよ

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漫画『宝石の国』 8巻初見感想 次々と明かされる都合の良い真実

8巻読了しました。7巻を初めて読んでから約1ヶ月かかりました。

一気に読んだ後に何度も繰り返し読み返すことが私の漫画読みの基本スタイルなのですが、本作品に関しては真逆で1つ1つ丁寧に考えながら読み進めています。
考えながら読むことが良いかどうかは人によって違うと思いますが、そうした方が作品にのめり込みやすい傾向が自分はあります。

これは、オリジナルアニメを見るときと似ているなと思いました。私はアニメはオリジナル作品が好きですが、オリジナル作品は原作付きと違い先が読めません。
よって毎週考えて次の展開を予想したり、これまでの内容を考察したりを自然としていました。

漫画でも連載作品の場合はそのようになる傾向がありますが、コミックスとして複数巻発売されているような場合はその限りではありません。
なのでどんどんと読み進めることも可能なのですが、『宝石の国』に関しては考えながら読み進めたかったのです。理屈ではないです。

それで、結果的にはとても楽しんで読めていまして、ここまで考えて言葉にしてブログまで書いて読み進めてきた漫画が無かったくらいです。


さて、前置きが長くなってきましたが何が言いたいかというと、宝石の国は前巻7巻ぐらいから徐々に作品の肝が明らかになってきています。
自分のこれまで考えてきたものがあると無いとでは、明かされる事実に対して受け止め方が全然違うのです。パズルのピースがハマっていく感じといいますか。

8巻も思わず声に出してしまうようなことが多く、そんな初見感想を書いていきますのでネタバレにはご注意ください。

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「はあ!」と月人が話し始めた時、あまりにも唐突だったのでフォスが喋り始めたと思いました。
それぐらいびっくりして、「おぉ、普通に喋ってる!」って声を出してしまいました。本当に声を出してしまいました。

これまでずーっと月のことを想像しながら読み進めてきたので、感慨深い。しかし、思いの外あっさりとネタバレと言うか月そして月人の生態が描かれたのは驚きでした。
今後はこの設定を前提にして進んでいくのですよと、読者に対して一気に印象付けたというか、事実の突き付け方が興味深いです。

それでですね、月人の方々の話し方がめっちゃ軽いノリで好印象なんですよね。
私たちはこれまでフォスたちの視点でしか月人を見ることができず、無愛想で無口で怖いというイメージすら持っていた月人が一気にコミカルに描かれるのですから面白い。本当に面白い。

「…………… ふつうに 喋るとか 馬鹿にしてんの?」と、フォスが三点リーダーめっちゃ付けて言い放つのが面白すぎます。
読者を代弁してくれているというか。

思わずキレ気味フォス(8巻pp13より引用)

宝石が粉々に

フォスが執着しているアンタークチサイトを持ち出して、「ほら、粉になってるんだよ」って言ってくるのって交渉術として優れているなと思うんです。
何かって言うと「君たちで飾り付けたこの星は美しいよ」という言説は嘘が含まれているのではと思っているのです。

作品後半で、ルチルに対してフォスが月へ呼び込むための交渉材料に使っているので作品観的には事実として扱われている気がするのですが、それでも全てが事実ではないような気がする。直感ですが。

祈りのための機械

亡くなった方を仏様と言うならば、先生がやっていることは仏様に祈るという行為なのかと少し合点がいきました。
オウジは「余計なもの一切を取り除かれた純粋な魂の元素でないとそこへは辿り着けない 魂の分解には質は問わないが生きている別個体の人間の祈りが必要だ」と説明しますが、それが機械である先生によって行われているという事実が衝撃でした。

なんだろう、本当にそうなのかなと疑いたくはなりました。機械が祈ることで魂が浄化されるという点、です。
これは翻って、先生は本当に機械なのだろうかという問いにも繋がります。

フォスも言うように、オウジは全てを明かしているように思えません。都合の良いように包み隠しつつ嘘を混ぜているような気がします。
ただ、機械であるという前提で考えないと話が進まないので、まずはそういう設定であると理解することにしました。

機械の動力は明かされていませんが、先生が眠たくなっていたことを考えると睡眠と大きく関係があると考えるのが分かりやすいでしょうか。

「にんげん」が地球のような場所に居たと考えると、人間がずっと動き続けてほしいと願って先生を作ったのであれば、動力源は太陽なのかなと思いました。
太陽よりも人間のほうが死にゆく速度は早いでしょうという、現実的な判断をしたのかなと。
眠っている間、太陽からエネルギーを回復できるようなそういう機構があったりするのかなぁと妄想します。

頭が冷えて冴える

フォスはオウジに言われて頭を冷やしたように捉えることもできますが、ラピス・ラズリの頭脳を持ってすれば高回転で思考が行われていて、自身の力で冷静になっていたように思います。

かぶりつく(8巻pp54より引用)

以前の記事でも何度か述べたように、フォスのこの2コマによる表情の変化はラピス・ラズリの思考速度を表現していると思っています。
驚きはするものの、次の一手を常に考えている気がしました。

誰の祈りも得られなかった魂が最も人間らしい

オウジは皆を早く自由にしてやりたいと言うのですが、その理由を苦痛といいます。

人間的な要素が残っているにも関わらず、永遠に進展しない毎日を過ごす月人にとって人間の野生は合わないというのです。
これも面白い話で、誰の祈りも得られなかった魂は人間らしさが残るというのが面白い。
つまり「余計なもの一切を取り除かれた純粋な魂の元素」の余計なものとは人間的な業の深さを指していたのかと。

安らかに眠りにつくことは仏様になることである、というような考え方は仏教の考え方なんだろうなと。宗派にもよると思いますが。
ただ、フォスが月に滞在した日数が四十九日だということからも、そういうことなんだろうなと。
亡くなった方が極楽浄土に行けるように祈り続ける、ということ。

それを先生が「機械」としてやらされるというのが気持ち悪いところです。
なので、先生が機械として認識されているのは月人がそのように認識したいからだ、という理屈を今は考えています。

帰路

これまで月人が現れるのを監視することが仕事の1つだったフォスが、自分たちの元へ帰るために月人御一行に帯同するのですから変な感じです。
まるで船着き場へ案内されたような、そんな当たり前の日常のように描かれるのが気持ち悪くなりました。

このコマが本当に気持ち悪い(8巻pp94より引用)

ダイヤとボルツ

遂に、ボルツがいない場所に行きたいとまで言ってしまったダイヤ。
ダイヤとボルツの関係性というかカップリングは、行き着くところまで言ってしまった感じがあります。
愛しているがゆえに近くにいたくない、一緒にいたくないというのは愛情表現として最上だと思います。

対話する

「戦いながらお話できる棒」がすぐ作れるならば、これまで宝石に対して会話をしてみなかったのかが気になります。
オウジがこれまで先生に対して試した内容として「攫った宝石への説得と協力」があったと説明がありましたが、攫って駄目なら現地で話してみるという方法が取られていてもおかしくないと思うのです。
あらゆる手段を尽くしたと言っている割にはスキがあるように見えてしまい、やはりオウジはすべてを話していないんだろうなと改めて思いました。

楽しい仕事じゃない

「夜の見回りよりずっと楽しくて君にしかできない仕事」じゃなかったから断ったのでしょうか。
一部は正しいと思うのですが、シンシャはもっとフォスに自分のことだけを考えてほしいと思っていると感じました。

フォスはシンシャのことよりも先生のことを解決したいと思っていて、その解決策の一つとしてシンシャに協力を依頼している構図になっており、そこが気に入らないのではという推察です。
コマやページをそのまま受け取るならば、みんなで行くんだよという言葉に対して強くショックを受けているように思えまして、そこが気に入らなかったのかなぁと。

シンシャも天才のときと乙女のときの差が激しいのでなんとも言えません。こればかりは。

皆で行く(8巻pp180より引用)

上記ページの描かれ方はあからさま過ぎるのでミスリードの可能性もあるのですが、普通に受け取ればやはり「みんなも一緒だ」に掛かっている気はします。
1対1でデートに誘われると思っていたら、友達みんなと行くよ! って肩透かしを食らってしまった感じというか。

毒についても、毒があったからこそフォスが自分を気にかけてくれているとも取れるわけで、シンシャにとって今フォスが優先順位高すぎになっているのではと。
いやー、シンシャの解釈が結構難しくなってきました。恋しているという方向性に振り切って考えても良いものかどうか。

終わりに

というわけでタイトルにも付けた通り8巻で明かされた真実は、都合の良い真実が多い気がしているんです。
すべてが間違っているわけではないものの、ポジショントークが含まれていると思うんですよね。

そういうところに気をつけながら、考察を進めていきたいと思います。
先生が機械だという設定をベースに1巻から読み直すことで発見がありそうだなと思っていますので、次の考察記事はそのあたりになると思います。
満足の8巻でした。