隠れてていいよ

主にアニメや漫画の感想を書いています

漫画『宝石の国』 先生が真実を明かさない理由はやはり愛なのかもしれない

8巻初見感想を先日書き上げましたが、それ以来、先生のことについてずっと考えていました。
改めて1巻からざっと目を通し直してみて感じたことを色々メモしているのですが、本記事では特に先生の秘密についての考察を深めてみたいと思います。

8巻までのネタバレを含みますので、その点ご注意ください。

以前書いた先生の記事:
thun2.hatenablog.jp


オウジは自分にとって都合の良い解釈をしている

人間が作った祈りのための機械……それが先生であると月人のオウジから明かされます。同時に、壊れてしまって仕事をしなくなったとも伝えられます。

フォスにとっては唐突なオウジからの情報開示だったわけですが、壊れてしまった先生の状態を少し考えてみたいと思います。
なぜこれを考えたいかというと、私は先生をいわゆる人間的な、感情も情緒もある存在であると捉えたいと考えているので、一般的な意味での「機械」という言葉で考えたくないからです。


さて本題に入る前に、祈りについて改めて整理したいと思います。
オウジの言葉を額面通りに受け取ると、人間が死を迎えると肉と骨と魂のうち肉と骨は星に還り、魂は肉体から放出されたのち分解され純粋な魂の元素となり宇宙のある一点に辿り着き、別の宇宙と呼ばれる領域へ吸い込まれるといいます。

別の宇宙は安寧の世界と予測されていて、そこへ至ることが正しいことだと理解されているようであり、辿り着くためには「余計なもの一切を取り除かれた純粋な魂の元素でないと」いけないという。
この「魂の分解」には生きている別個体の人間の祈りが必要だといい、誰の祈りも得られないまま月に座礁し変容した人間の魂の集合体が月人であるとオウジは言います。


早速ですがこの説明を素直に受け取ると、矛盾があると思います。
「魂の分解」には生きている別個体の人間の祈りが必要だと言っているのに、「機械」であるという先生に行わせている点です。

オウジの言葉をよくよく読み解くと、「実際に観測されていたようだ」と言われているのは「魂が最終的に別の宇宙と呼ばれる領域へ吸い込まれる」という部分までであり、
「余計なもの一切を取り除かれた純粋な魂の元素でないとそこへは辿り着けない」には掛かっていません。
後者の解釈は、その領域に辿り着けなかったオウジが自身の現状に理由を付けたくて無理に解釈をしたという捉え方ができます。

何が言いたいかというと、オウジは自分の都合よく物事を解釈している部分がそれなりにあるのではないかという仮説です。
実際「ようだ」という言葉が散見され、多分に推測を含むことが分かります。

「人間が最後に作った祈りのための機械だ」と言い切っているにも関わらずその後すぐに「元々は最後の人間が寂しくないようにという情緒的見地から作られたようだが」という言葉が続くのはとても不思議な感じがしませんか。
オウジは先生の出生の理由をその目で見たわけではなく、伝聞でしか聞き及んでいないか推察で言っている可能性さえあると思います。
そもそも先生が仕事をしていた場面をオウジは目撃したことがない、なんてこともあるかもしれないなと思ったり。

オウジはまっとうな解決を避けている、ように見える

宝石のことを大切に思っていたり時折驚いた表情を見せたりすることから、先生が感情を持っていると私は考えたいと思っています。
そして、そんな先生が仮に仕事をしなくなったのだとしたら、何か意図があって意図的にやらなくなったと考えたいとも思っています。
何もしてないのに壊れるのはパソコンぐらいです。

そんな私の思いをよそに、月人は、まるでショック療法のようにいろいろ試して反応を見るという遠回りなことをやっている気がします。
先生のことを深く理解しようとしていないように見えるのです。数万年もやっているんです、こんなことを。

先生が意図的に魂の分解を行っていないとすればその意図を理解することが近道だと考えられるのに、それをしようとしない月人という構図があるわけです。
まるで壊れたテレビを直すために、ガンガンと外側から叩いているだけのような。

月人が無能なのか、先生が機械であると月人が盲目的に信じてい(てアプローチが間違っている)のか。
個人的には月人は盲目的になっていると思っていて、都合の良い解釈をしているように思います。

つまり先生は意図的に行動を起こしていないのに、それ理解しようとしない月人という構図がやはりあるのではという仮説です。

仮に先生が祈りを行えるのにしていないとしたら

先生は月人などの情報を敢えて伏せている理由を「おまえたちの安定と安全を優先している」とフォスに述べていました。
この点は、重要なポイントだと思っています。

goo国語辞書から引用すると、「安定」は物事が落ち着いていて、激しい変動のないことを、また「安全」は危険がなく安心なこと。傷病などの生命にかかわる心配、物の盗難・破損などの心配のないことを示していると言います。
安定と安全、これらの反対の状態を考えるとすると「物事が落ち着いておらず激しい変動があり、危険な状態で生命にかかわるような心配がある状態」を指すことがわかります。

つまり先生が情報開示すると、結果的に危ない状態になるだろうと考えられるわけなのですが先生が情報を開示していない今の状態でも、安定・安全とは言えないなと私は感じます。
定期的に月人に襲われて仲間を失っている状態は、とても健全とは思えません。

すると逆説的には先生が情報開示した場合、現状の比じゃないくらいの不安定で危険な状態になる可能性が考えられます。

宝石にとって生命にかかわるほどの状態とは

ここでまた考えてみます。
宝石にとって不安定で、生命にかかわるほどの状態とはどんな状態でしょうか。

インクルージョンを含んだ鉱物である宝石たちは、砕け散ってもある程度集まることができれば生き返ることができるといいます。
これまでも何度も引用していますが、ルチルが1巻で語った内容です。

「私たちの中には私たちを創ったとされる微小生物が内包物(インクルージョン)として閉じ込められており現在は光を食べ 私たちを動かしてくれています 彼らは私たちが砕け散ってもある程度集まりさえすれば傷口をつなぎ生き返らせるのです」

漫画『宝石の国』1巻 pp33より引用

寿命の長さが宝石の特徴として語られることも多いぐらいに、彼女たちは長寿であり安定していると言えます。
また、仲間が失われていったとしてもなんだかんだ宝石は生き続けています。同時に、ある程度安定的には生み出さされ続けているともいえます。

「古代生物が海で朽ち無機物に変わり 長くは数億年地中をさまよった後 うまれる」

漫画『宝石の国』4巻 pp93より引用


さて、人間の生命の危機はミクロ的には「死」だと思います。ただマクロ的に見れば、人口の減少なのではと私は考えています。
これを宝石にそのまま当てはめるとすれば、宝石たちの生命にかかわる危機は新しく宝石が生まれず緩やかに宝石の数が減少していく状態もしくは絶滅のような状態を指すのかもしれません。

先生が情報を開示するとどうなるのか

では改めて、先生が宝石に月人の情報を開示するとどうなるのかを考えてみたいと思います。
実は以前にも少しだけ考えたことがあります。

例えば、真実を聞くと宝石たちが道を踏み外してしまうようなことが発生するとか。
過去失った仲間を取り戻す方法が分かってしまい、皆が死に急ぐしょうなことをし始めるとか。
取り戻す方法はあるけれども存在を失うリスクが高すぎる方法である、とか。

もしくは、先生が嫌いになってしまうとか。

漫画『宝石の国』先生は愛ゆえに苦しんでいるのではないか - 隠れてていいよ

上記は仮説の集まりですが、それらは以下のような部分に収束するのかもしれないなと今改めて考えています。

  • 宝石が新たに生まれなくなる、もしくは数が少なくなる
  • 短期的もしくは中長期的にに宝石が根絶・絶滅する


もう1つ、別視点からの考察があります。
それは先生が情報を明かすことで、回り回って先生の破壊する力が戻り、宝石たちも含めて無差別に分解を行ってしまう可能性です。
個人的にはこの説はありえそうだなと思っています。
オウジが先生の力を「実質は人間の肉体は元より魂までも瞬時に分解する恐ろしいほど強力な破壊装置だ」述べていることからも、宝石を破壊する力を持っていると捉えることができます。

先生は、自身の持つ破壊の力そのものには気づいていそうな雰囲気があるのですが、その力を行使することに躊躇があるようにも見えます。
何かがきっかけとなって自分の力が暴走することを、恐れているように見えなくもないのです。
「分からないことが多い以上は、曖昧なことは伝えられない」という先生のスタンスとも一致する気がします。

そういう考え方をすると、先生の優しさであると捉えることもできるし「おまえたちの安定と安全を優先している」という言葉にも嘘がないように思えますし「それでも愛している」と言う先生の気持ちも分かる気がするのです。

先生が真実を明かさない理由は、究極的には宝石への愛なのかもしれないなと改めて思ったりしたのでした。
とは言いつつ宝石の国には結構裏切られているので、そんなきれいな落とし所になる気は全然していないのですが(笑

終わりに

というわけで、先生について考えてみました。先生の謎は、明かされたようでまだ明かされていない感覚があります。
まだまだ書きたいネタがあるので、9巻を読む前にもう少し先生への考察を深めたいと思います。


全然関係ないですが、最近、画像生成AIの「Stable Diffusion」をちょこちょこ触っているのですが、人間のような宝石をテーマとして色々試して生成してみた画像が以下です。

画力の才能が1ミリもない私が、自分の表現したい絵をパラメータを調節しながら創れるというのが、本当に技術革新の場に立ち会っているなという感覚があります。

Jewelry like a human(using Stable Diffusion)