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西尾維新最新「伝説シリーズ」 ぶっ飛んだストーリーと主人公「空々空」の在り方

ストーリーはぶっ飛んでいるのですが、そのぶっ飛び加減に主人公「空々空」が何を想い、何を感じ、どう行動するのか、が本作の魅力であると私は思います。

悲鳴伝 (講談社ノベルス)

この装丁、ご存知でしょうか。私がこの書籍を初めて見たのは、アニメイトだったかと思います。ラノベ棚をぼうっと眺めていたら、すごい勢いで視界の中に入ってきました。見た目の派手さはもちろんのこと、結構厚い。約3.4センチ。境界線上のホライゾン1の上巻より2ミリほど厚い。
厚さ比較として、未だ積んでいます『いつか天魔の黒ウサギ』さんに登場してもらいました(下画像)。実際、上下2段組なのもあり文字数も多いです。


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こんな本、誰が出しているんだといえば、他でもなく西尾維新さんであります。今クールではアニメ『<物語>シリーズ セカンドシーズン』の原作を手がけていらっしゃいますし、最近だとめだかボックスの原作、といえば馴染み深いでしょうか。
少し話題がそれますが、西尾維新さんの作品群は「◯◯シリーズ」と冠されます。以下、刊行年月日順リスト 戯言日和という記事、及びWikipediaを参考にこれまでのシリーズを並べてみました(シリーズが特別冠されない作品も沢山あることも付け加えておきます)。なお最終刊行とは「最後に刊行されたもの」という定義にしていますので、つまり未完結かどうかは関係がありません(未完結かどうかの裏を取るのが面倒だったとかそういうことじゃないんだからねっ)。

2013年11月4日現在

シリーズ 1巻タイトル 1巻発売日 最終刊行タイトル 発売日
戯言シリーズ クビキリサイクル 2002/02/05 ネコソギラジカル(下) 2006/06/06
人間シリーズ
(零崎シリーズ)
零崎双識の人間試験 2004/02/06 零崎人識の人間関係
(4冊同時刊行)
2010/03/25
JDC TRIBUTEシリーズ ダブルダウン勘繰郎 2003/03/05 トリプルプレイ助悪郎 2007/08/06
世界シリーズ きみとぼくの壊れた世界 2003/11/05 不気味で素朴な囲われたきみとぼくの壊れた世界 2008/12/04
りすかシリーズ 新本格魔法少女りすか 2004/07/17 新本格魔法少女りすか3 2007/03/22
物語シリーズ 化物語 2006/11/01 終物語 (上) 2013/10/22
刀語シリーズ 刀語 第一話 絶刀・鉋 2007/01/09 刀語 第十二話 炎刀・銃 2007/12/04
伝説シリーズ 悲鳴伝 2012/04/25 悲惨伝 2013/06/26


私は◯◯シリーズと冠されているものについては戯言シリーズ物語シリーズ、伝説シリーズしか読んでいないので、西尾維新フリークでもなんでもないのですが、とは言え西尾維新さんの作品に大ハマリしているのも事実でありますので、これからどんどん読み進めようと思っています。

そんな西尾維新さんの最新シリーズ、その名も「伝説シリーズ」。本記事では、本シリーズの主人公である「空々空」についてと、本作が語られる「視点」について、それぞれ書いてみようと思います。核心に迫るようなネタバレは控えているつもりですが、純真な心でいたい! という人は逃げて下さい。

主人公「空々空」

まず、読めない。なんと読むでしょうか。正解は「そらからくう」です。「そらから」が苗字で「くう」が名前です。西尾維新さんの作品は変わった読み方の名前が登場することは日常風景ですが、これまた一気に引き込まれる名前でした。
しかし何より私が惹きこまれたのは、主人公の生き方、生き様、在り方でした。

主人公空々空は、感情があるが感情はない。怒りや悲しみに対して無頓着である、という表現は近いようで少し違う。「何かを悲しいと思っている自分を演じている」ということを自覚しながら無自覚に演じている、それが空々空です。彼は自分が「悲しめないこと」を知っており、それを自覚しながらも努めて平静であろうとする、普通であろうとする、しかもそれを無自覚的に行っている。
自覚しながら無自覚に演じている、という表現は矛盾があるように聞こえるかもしれませんが、彼を表すのにこれほど的確な言葉は無いと私は思う。彼は自分が無自覚的なことにすら気づいていて、それを無自覚的に演じているのです。
一言で言えば「変わった子」。弱冠十三歳。様々な人との出会いや事件、死。そういったものに出会った時の彼の一挙手一投足は、常人とはかけ離れており、それは非常に魅力があり、また考えさせられます。特に、「人の死を上手く悲しめない」、ということに対して何かしら思うところがある人にとっては、空々空という主人公は良くも悪くも何か気づきを与えてくれるでしょう。ちなみに私は、空々空にこれでもかというくらい感情移入させられました。

「主人公が物語を引っ張る作品は面白い」という表現がありますが、本作品はこの言葉が本当に相応しいと思います。空々空なくして、この作品は存在し得ないと言い切れます。

本作が語られる「視点」

本作は主人公空々空の一人称で語られません。本作は、第三者、メタ視点で語られます。私はそれほど本を嗜んでいないので、語り部の一般的な種類を存じていませんが、とても人間味を感じる語り部です。いわば天の声、ナレーションと表すのが妥当でしょうか。しかし深く主人公の心を推察するので、世話やき視点と表現したくもなる。しかし第三者であることは間違いがない。
メタな視点は主人公の心理を推察し、解釈を加えていくことを行います。そういう意味で、本作は、実は主人公が本当にどう思っているかどうかは会話文から推測するしか無いのかもしれません。メタ視点で「彼はそう考えていたに違いないし、おそらくきっとそうなのだろう」みたいな婉曲的とは言え断定的な言い回しがされることがあるのですが、それは時にミスリードなのかもしれないし、違うのかもしれない。
モノローグは殆どありません。あっても、会話文の直ぐ後に、最大2行くらいのモノローグが入るくらいで、後はト書き、神様視点です。

この第三者的な、まるで登場人物を突き放したようなナレーションのような語りに抵抗がない人にとって、本作は非常に楽しく読める、楽しめると思います。

悲鳴伝』,西尾維新,pp10.

「いえ、そういうとらえかたがあるのはわかるんです。僕にもわかるんです。それ自体を不謹慎だって言うつもりはなくて……」
 空々は更に慎重に言葉を選ぶ。ここまで来て、来ておいて、あまり慎重になり過ぎても仕方がないことは百も承知なのだが。そもそも空々は、こんな問診を受けるのは初めてのことだったので、なんとなくこういう診療所を『悩みを聞いてもらえる場所』だと思っていたのだが、しかしこうしてあっさり反論されてしまったところを見ると、決してそういうわけではないらしい。
 だがそれは不快ではなかった。

例えば開始10ページから一部引用してみたのですが、第三者視点からのこういう言葉遣い・伝え方が会話文と共に続きます。これを野暮ったいと思う人もいるでしょうが、私は、このナレーションこそ、空々空を語るにふさわしいものだと思っています。
極めて異質な考え方を持つ空々空を、一歩引いた視点で、その心を推察しながら進むストーリー展開は、脳汁出ること請け合いです。


冒頭の繰り返しになりますが、ストーリーは結構ぶっ飛んでいます。しかし、そのぶっ飛び加減に空々空が何を想い、何を感じ、どう行動するのか、が本作の魅力であると私は思います。

終わりに

1作目『悲鳴伝』に始まり、2作目『悲痛伝』3作目『悲惨伝』がすでに発売されています。4作目『悲報伝』も11月26日に発売が決定しました。結構分厚い、とは言え、はまりだすとページを捲るのが止まらなくなります。
1巻では独特の雰囲気と空々空というキャラクターに慣れることから始めて良いと思います。まず、1巻を手にとって見て下さい。そしてそうすれば、2巻以降、あなたはもうページをめくる速度を緩めることはできなくなるでしょう。私は、3巻の読むペースが、1巻の3倍以上あったように思います。

「伝説シリーズ」、お勧めです。





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