隠れてていいよ

主にアニメや漫画の感想を書いています

西尾維新『デリバリールーム』 所感

本記事は、2020年9月末頃に発売された西尾維新さんの作品『デリバリルーム』のネタバレを含みます。
まだ読んでいない方はお気をつけてください。





デリバリールームの意味

さて、恥ずかしながら「デリバリールーム」というタイトルを、本文で説明されるまで意味を理解できませんでした。
冒頭から、いや冒頭と言うか本文に入る前の登場人物紹介のページから圧倒されたのは事実です。妊婦、妊婦、妊婦、妊婦、妊婦……こんな設定って許されるのっていうか、形にできるの? っていう衝撃が開始わずか1ページに有るんだからびっくりしましたよ。
しかも一癖も二癖もある過去を持つキャラクターたちが物語を彩るわけで、最終的な「出産」というところになぜ行き着かなかったのか。いや、そんな当たり前のところに発想が行かなかったかもしれません。
いや違います、そもそも「分娩室」を英語で「delivery room」と言うことを知らなかった無知、そこにつきます。これって常識レベルなのですか? 私はマジで知りませんでした。
「言うまでもなく」と本編で言われるまで分からんかったわ。

さて、そんな無知な私でも本作品を楽しめたという意味で、実は本のタイトルはそれほど重要ではないのかという暴論を言いたくなりつつも、実際は「デリバリールーム」という安全な出産をお約束するものがデリバリールームなわけで、タイトル詐欺でもなんでもなくド直球だったと言えるわけです。

読後感は、すっきりはしなかった

タイトルに所感と書いていることからも、所感を言うと、面白かったです。物足りなかったと言われれば嘘ではありませんが、十分に楽しませてもらいました。
「妊婦が殴り合う」という表現を使うと色々問題になりそうですが、知力・体力を駆使して出産のために前向きに立ち向かう妊婦の方々は興味深かったです。

話の骨子は、主人公の宮子の出産にどんな意味があるのか、何を思っているのかを我々読者が想像するところにあると思います。だからと言うか、デリバリールームの仕組みというか甘藍社の設定はそこまで凝ってはいなかったように思います。ネタばらしされてなるほどねぇって思うものの、それそのものはそこまで大きな衝撃はなかったというか。

そもそも、実の父親の代理出産を母から命じられ(たかもしれない)というところが十分にキャッチーなので、それ以外はそれを装飾するパーツにすぎないという感覚が正しいといいますか。
宮子がまだ中学生で、なんだかんだ人生経験が浅いというところも寄与していたかもしれません。用意された、演出されたパーツを力技で乗り切っていくスタイルと言うか。


読後感は、さっぱりしなかったのは事実です。世界シリーズのように1巻まるごと緻密に練られた伏線というわけでもなかったし、淡々と物語を読み進めてしまえる感というか。
デリバリールームの謎にそこまで興味がなかったと言うか。最初に話したように、骨子は宮子の裏事情なわけですが、知ってしまったら終りというか。

多分この作品はシリーズ物ではないと思うので、1巻の中でまとめきらないと行けなかったゆえに駆け足になってしまったと思うのだけれども、もう少しページ数を割いてキャラクターの掘り下げや、デリバリールームの掘り下げをしても良かったと思います。淡々と説明される説明文を淡々と読まされる感というか。それでも西尾維新さんの特徴的な語り口調は相変わらず面白いのでサクサク読めてしまうのですが。

ちなみに伝説シリーズとかもそうだったのですが、キャラクターの挿絵が一切ないのが素晴らしいですね。もちろんビジュアルを見てみたいという想いはあるんですが、想像の余地を残したほうが頭は考えるなと。
本作は特に特徴的なバックグラウンドを持つキャラクターが多いので、そこを自分の想像で自由に補えるのが良いです。

終わりに

ところで、本作品はハードカバーなのです。ペーパーバックじゃないのが気に食わなくて、最初購入をためらったぐらいには。
西尾維新さんの本は、柔らかい形で読むほうが好みかもしれません。

デリバリールーム

デリバリールーム