隠れてていいよ

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アニメのBD&DVDに、原作に関わる重要な特典を付けるのはそろそろやめにしませんか

本記事は、6月24日に発売されたライトノベルようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編7』の、あとがきの内容を含みます。
まだ読了されていない方で、あとがきの内容を知りたくない方はお気をつけてください。
なお、あとがきには本編の内容は書いていないので、ストーリー的な内容のネタバレはありません。



原作が好き、だけどアニメを気に入っているとは限らない

さて、素晴らしい本編を読み終わったあとにあとがきを読んでいたら嫌な気持ちになりました。
端的には、まもなく放送開始されるテレビアニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Season』のBD&DVD特典に、「ようこそ実力至上主義の教室へ 0巻」と冠するタイトルで特典冊子が付くと宣伝がされていたからです。

0巻ということで、綾小路の過去に迫る内容になっています。イラストレーターのトモセ氏からも全面協力して頂き、本編と同様のボリューム、イラストの枚数になりましたので、どうぞよろしくお願い致します。

ライトノベルようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編7」のあとがきより引用(pp327)


ようこそ実力至上主義の教室へ 0巻」という特典冊子が出ると聞いて、嬉しいと思った人もたくさんいると思います。
綾小路の過去は本編でもまだ殆ど語られていない内容なので、この内容には作品を読み解く上でとてつもなく重要な情報が含まれていることが推察されますし、物語としてもきっと面白いものになると思います。

同時に、ライトノベルの本編そのものにお金を出しても得られない原作の情報が出てきた、という事実でもあります。
アニメのBD&DVDに原作に絡む特典冊子やイラストがつけられることはさして珍しいことではありません。描き下ろしショートストーリーが店舗ごとに別キャラクターでつくなんて、よくあることです。
しかし「本編と同様のボリューム、イラストの枚数」となると、意味合いが大きく異なってくると私は思います。

描き下ろしショートストーリーだろうが「本編と同様のボリューム、イラストの枚数」だろうが、いずれにしてもライトノベルそのもの以外に対価を払って、ライトノベル本編と関わる情報を得る、という構図に代わりはありません。
ただ「本編と同様のボリューム、イラストの枚数」の「綾小路の過去に迫る内容」になっている物を手に入れるために、ライトノベルとは別の、アニメと言う媒体の、BD&DVDを購入しなければならない、この事実がとてつもなく嫌なのです。

今になって始まった議論ではありません。
古今東西昔から、アニメの円盤に特典冊子などがつけられることはよくありました。プレミア感がつくので、逆に嬉しいと思ったことも無かったといえば嘘ではありません。
しかし、作品の原作を楽しむために別媒体の安くないものを購入しないとダメです、と突きつけられているようでとても苦しいのです。
ただただ「ようこそ実力至上主義の教室へ」を楽しみたいだけなのに、水をさされた気分なのです。

上記は個人の感想ですが、メディアミックス展開の問題点を考える上でずっと議論されてきている内容だと思っていて、令和の時代になってもなんの変わりがないことが分かり、若干失望した部分でもあります。
勝手に失望してろよと思われるわけなのですが、同時に似たような経験をしたことがある方なら、なんとなく気持ちはわかってもらえるのではと思ったりもします。

このあとがきを読んですぐに思い出したのは、片山憲太郎さんが書かれているライトノベル「紅」のアニメ化の話でした。
ブログではこの話を何度もしているのでご存じの方には今更の話も多いので長くならないようにしますが、端的にはメディアミックスに伴い、
原作のライトノベルの巻構成が大きくいじられ(たと推察され)、公式ファンブックを買わないと当時の最新作の結末(だと思われるもの)が読めないという悲しいことがありました。
thun2.hatenablog.jp

2011年に書いた化石のような記事ですが、本質は今でも変わっていないような気もするので興味のある方はご一読いただければと思います。


さて話を戻すと、今回の記事ではアニメのビジネスモデルの詳細なところまで踏み込むつもりはありません。
それを語るには、自分のアニメ業界への知識がアップデートされなさすぎているからです。
私のアニメのビジネスモデルに対する知識は、同人誌を出した2011年頃で止まってしまっています。

アニメ業界に限らずどんな業界でも一度固まった収益構造は変えられないのが常ですし、合理的な理由から変わらないこともあると思います。
そういった状況を踏まえても、感情的に「それはないだろう」と相当に強く思ってしまう現状がまだ残っている状態は健全ではないと直感で思います。
原作を楽しむために、それ以外の媒体を買わせる売り方は私は好きになれません。ただそれだけなんです。

ここからは蛇足

2011年といえば、バンダイチャンネルが月額千円でアニメ見放題サービスを開始した年です。
また、ストリーミング配信サービスでアニメを見るという文化がまだ定着していない頃で、アマゾンプライムビデオも「プライムインスタントビデオ」というサービス名称が世にようやく出始めたくらいでした。

その2011年当時に、同人誌で私が論じていた「昨今のビジネスモデル」は、「劇場公開モデル」「タイバニモデル」「少数精鋭モデル」の3つでした。
「劇場公開モデル」に関しては「アニメビジネスがわかる」という書籍を引きながら、劇場公開は興行収入をどれぐらい稼げば儲かるのか、やる価値があるのかなどを論じていました。

その時の資料では、BDやDVDといったビデオグラムについて、ビデオメーカーにライセンスを出す方式であれば製作者に入ってくるのは定価の20から30パーセント程度だという記載がありました。
当時人気を博した劇場アニメ「涼宮ハルヒの消失」について試算をしていたところ、ビデオグラムの収益だけで本作品が黒字になっていることも分かりました。

令和4年となった現在、アニメのビデオパッケージの売上は年々減少し、映像配信サービスに主戦場が変わってきたことは、直感的にもデータからでもわかります。
久々にアニメ産業レポートのサマリーPDFを見てみましたが、ビデオパッケージに言及される欄があるほどには減少傾向にあることがひと目でわかります。
aja.gr.jp

アニメビデオパッケージの売上の推移図
画像は上記アニメ産業レポート2021のサマリーPDFからの引用。以下の画像も同様


また、我々ユーザーがアニメ産業に対して支払った金額を推定した、広義のアニメ産業市場の推移及び割合についても上記レポートには記載がありますが、
ビデオグラム収益は2020年では466億で、全体の2兆4261億円からすると割合としてはかなり少ないことも分かります。
商業アニメ制作企業側の売上の切り口から見た図でも割合としては同じように少ないです。

アニメ産業市場(ユーザーが支払った金額を推定した広義のアニメ市場)の推移[2002~2020]


ただ、この図から「もはやビデオグラムによる収益によるビジネスモデルが意味のないものである」とは言い切れないとは思います。
あくまで全体に対しての割合のため、アニメ制作1つ1つで見ればその割合は変わってくるとことが想定されます。
製作委員会方式におけるそれぞれの出資額や割合からみるとビデオグラムでの資金回収は非常に有利であるとか、配信サービスからの売上割合は作品1つ1つからするとそれほど大きくないことがあるとか。


このあたり本当はちゃんと調べたり聞いたりしたら分かることだと思うので断定的な言い方をすることは避けたいと思います。
ただ、ビデオグラムに原作の限定商品をつけて売り出す形での販売モデルは好きではないので、このモデルが今のアニメの一番の資金回収モデルとしていまだ君臨しているのだとすると、
余り喜ばしくないなと思うところがあります(限定という付加価値をつけることによって購買意欲を煽るインセンティブができると思うからです)。

来月はまとまった時間が取れるので、余裕があればまたアニメ業界についての情報をアップデートできたらなと思います。
常に最新の情報を追い続けている方々には頭が上がりません。


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