話すことで楽になれることばかりではない、なんてことはずっと分かっていたはずなのに、あらためて突きつけられると自分の心は苦しくなりました。
瑞希の過去のことは微細には語られていないけれども、自分が自分であるということを周りに受け入れてもらえなかった過去があることはわかります。
その内容を読み進めながら、自分のことがフラッシュバックしました。隠れオタクとして過ごしていた学生時代です。
今の世代の人たちには理解できないかもしれませんが、オタク趣味であることを公言することが社会的な死を意味する時代がありました。
同世代のみんなが同じ境遇だったとは思いませんが、少なくとも私はそうでした。
今回の瑞希の持つ恐怖の根源というか、今の関係性が終わってしまうのが嫌だから話さないという気持ち……これは痛いほど理解できてしまいました。
アニメを見ていると言っただけでクラスから気持ち悪がられ村八分にされると分かっている中で、一体誰が、深夜アニメを死ぬほど見ていること、漫画を死ぬほど愛していること、アニメソング・電波ソングを死ぬほど聴いていること、二次元が好きなこと……それを伝えられるでしょうか。
伝えたいという気持ちはありました。自分が好きなことを共有して盛り上がりたい、そんな当たり前の欲求はありました。
このキャラクターが可愛い、この作品が面白い……そんな当たり前を当たり前にできませんでした。怖くて怖くて、できませんでした。
そんなことをしたら、もうやっていけなくなるだろうと思ったから。
そんなとき自分は、ネットの世界に救われました。リアルではない、ネットの世界で、オタク話に花を咲かせました。
現実は常に横たわっているので壊さないようにそっと隠れて、ネットの世界でなんとか息をしていました。
そんなことを思い出して苦しくなってしまうぐらいには本キーストーリー「ボクのあしあと キミのゆくさき」は強度がありました。
ここからは、少し本編の内容にも触れていきたいと思います。
絵名の信念
絵名の、友達のことをただただ大切に思う直情的な姿勢に心を打たれました。
同時に、その気持ちや覚悟が伝わったからこそ、それを壊すかもしれない可能性が1%でもあるならば話せない、と感じてしまった瑞希にもまた心を打たれました。
(だって、話さなかったら――
ずっと一緒にいられるかもしれないって、思っちゃったんだ)
(……ううん。ずっとなんて、きっとない。
でも、今の時間が1日でも、1秒でも長く続いてほしい)
キーストーリー全体を通して感動しましたし、屋上のシーンも通して感動しましたが、この最後のやり取りの部分が一番ぐっと来ました。
冗談抜きで、涙がちょっと出そうになりました。
本気で自分のことを考えてくれている絵名に応えたい、だけども応えてしまったら、今このままが続かなくなってしまう可能性があるから言えない……。
綺麗すぎませんか。
瑞希自身も気づいてしまっているように、ニーゴのメンバーは瑞希にとってかけがえのない仲間になってしまいました。
だからこそ、その関係性を壊すわずかな可能性を前にして、勇気が必要になってくるという矛盾なんです。
この矛盾が美しすぎて、ヤバい。なんでこんな良いストーリー書けるんだろう。
絵名の瑞希に対する一連の働きかけは、ややもするとお節介にも取られかねないような、強引さもあると思います。
だけどやっぱり、この絵名の強い信念と行動力がないと瑞希は前に進めないと思いました。
終わりに
近いうちに瑞希のことは語られていくのでしょうけれども、心の準備はできたかなと思います。
絵名がいてくれるのなら、きっと瑞希の今後の展開にも耐えられそうな気がしました。
わずか8話という短いストーリーの中で、こんなにも美しい内容を描けるって、本当に素晴らしいなとあらためて感じました。
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