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『アクタージュ act-age』は黒山墨字の物語なのか

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週刊少年ジャンプ公式サイトより引用
https://www.shonenjump.com/j/rensai/act-age.html


2018年8月号、暦的には2018年1月より連載開始された『アクタージュ act-age』(以下アクタージュ) という作品をご存知でしょうか*1
actという文字が見えるように芝居を中心においた作品で、どちらかと言うと珍しいジャンルに入ると思います。

少年誌は週刊少年ジャンプだけはずっと読み続けているのですが、このアクタージュという作品を当初特に理由なく読み飛ばしていました。
しかし、劇団天球編で突然猛烈に気になってしまいコミックを購入して一気読みしたのですが、それはもう面白すぎてなぜ読み飛ばしていたのかとひたすらに後悔をした覚えがあります。


さて、本記事では最新号である2020年19号から始まろうとしている新展開突入(公式の扉絵的表現)に先駆けて、これまでの作品展開を振り返りつつも、この作品がどこへ進もうとしているのかを考えてみたいなと思っています。

コミックス及び本誌の最新号までのネタバレを含みます。ですので、もしまだ未読の方がいらっしゃったら、ぜひ大人買いしていただいて読み進めてから読んで頂くことをお勧めいたします。
第1話については、上記週刊少年ジャンプの公式サイトから無料で立ち読みできますので、まだ一度も目にしたことがない方はぜひこの機会に出会いを作ってみてはいかがでしょうか。


なお本記事で利用しています漫画の画像は、電子版少年ジャンプもしくはKindleの電子版コミックから引用させていただいています。


アクタージュは黒山墨字の物語なのか

最近のストーリーを読んでいる方ならお気づきだと思うのですが、露骨に黒山の件が表現されています。
黒山の件とはすなわち、黒山が撮りたい映画の件です。

第1話の冒頭10ページにも満たない中で、以下のコマがすでに描写されていることは皆様ご存知でしょう。

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「見つけた。」 --アクタージュ1巻 scene1. 夜凪景より引用


夜凪景のポテンシャルが早速示されたシーン、この「見つけた」というのは黒山が撮りたい映画で主演をはれる女優を見つけた、ということと推察されます。

私達は1巻のこの冒頭シーンにおいては夜凪景や黒山のことをまだよく知らないので感情移入はしづらいわけなのですが、あとから考えると「ずっと探していたものがようやく見つかった」ということがまささにそのまま感情として現れてたんだなということがわかります。

1話どころか以後はしばらく夜凪景にスポットが当てられていて、夜凪景の成長物語だと私達読者は読みすすめることになるのですが、実は1話で示された黒山の撮りたい映画というのがその根底にあり続けるのです。
恥ずかしながら、私は時々忘れます。コミックスを読み返すたびに思い出すのですが。


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「1本の映画のために 70億人からたった一人を探し続けてる」



同1話の上記コマの次ページで黒山はこう言っている。「どうしても撮りたい映画があるんだ そのために仲間を探している」と。
そう、本当はこの作品の根幹は第1話でバッチリと示されていたはずなのに、その後の夜凪景の活躍に目を奪われすぎたせいで時々忘れそうになるのです。


しかし連載2周年を向かえた第101話、Scene101. GO においてより強いメッセージ久々に示されたなと思いました。
ダブルキャスト企画である羅刹女編では、黒山が手掛けたのは百城千世子が出演するサイド「乙」の方でしたが、今更ながらにこれは間接的に夜凪を成長させる、黒山墨字という男の底知れなさを描写する、そして何より黒山墨字の映画がいよいよ始動するための壮大な導入だったのです。知ってたって? いいじゃないですか、してやられたって。



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「しまいまでやれねぇなら 手出してんじゃねぇよ うちの役者に」 -- 週刊少年ジャンプ2020年12月号より引用

かわいそうに、みんながみんな当て馬にされてしまったのです。全ては黒山の作る映画のために。
この101話以降は、羅刹女が露骨に黒山の映画作りのための下地だったことが黒山の口自ら明かされていきます。リッキーまで視野に入れていたのは驚きました。

要点をまとめるとこうです。つまり黒山は夜凪景という無名の役者を使ってとんでもない超大作の映画作品を作りたいと考えている、そしてその助演には若手トップ女優を使いたい、芸能界を追放されたスターを日本で再びキャスティングしたい。
羅刹女以前から黒山は一貫して、夜凪景を有名にすること、自分の求めるキャスティングすることを念頭に進めていたのです。

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「長かった」 --アクタージュ8巻より引用


上記のコマは新宿ガール撮影前での電車内でのやりとりですが、これもよく考えると夜凪を有名にするための施策だったのでしょうが、当時はそこまで深く考えて読めていなかったというのが正直なところです。
黒山は、プロデューサーとしても実は超優秀なのではと改めて読み返して思うのです。本人に言わせれば、自分のやりたいことをやるための最善の方法を進めているだけなのかもしれませんが。

羅刹女の舞台を成功させることはもちろんのこと、今後の夜凪景の進出をしやすくなるように星アリサにこれまで以上に借りを作ったりしていたのが本当にしたたかで、
羅刹女編以前にも「あの男に借りを作ってしまったわね」的なシーンが挟まれるのですが、これもいずれ来る夜凪景の国民的スターへの道への布石だったのでしょう。



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このページのカタルシスはやばい -- 週刊少年ジャンプ2020年19月号より引用


だからこそ、上記のコマは読んでいて震えました。いよいよきたか、と。まさか羅刹女編の当初にこのページを想像できた人はいるのでしょうか。感極まりましたよ。
まったく無表情に「見える」黒山、しかしその言葉の一文字一文字からはとてつもないエネルギーが見て取れますし感じられます。
無表情に見えるものの、その顔にはとてつもない活力がみなぎっているように見えるのは私だけではないですよね。こういうコマというか、こういうキャラクターの描写ができるって本当にすごいなと。ひっくり返りそう。


羅刹女編が終わってどういう形で次に繋げるのかなと思っている中での、羅刹女舞台打ち上げで一旦休憩を入れてきたのが先週でしたが、正直このお疲れ様回はめちゃくちゃ好きな回でした。
この記事を書こうとする原動力となりました。
ややもすると、こういう内輪ネタと言うか、これまで絡んでこなかったキャラクター同士が絡んだりしてしまったりというのは敬遠されることもあるのですが、アクタージュはいい感じにまとまっていまして、というかこれまであまり絡みをメインにやってこなかったからこそ、あえてこの本編外でうまく絡ませてきたのがすごいなと。

リッキーこと王賀美陸と、天使こと百城千世子の絡みなんかがまさにそれで、どう絡ませてもちょっと作った感が出てしまうところを、過去も一瞬絡めつつ1ページ約7コマでやりきる徹底さ。
加えて確信である黒山墨字の映画の話に即座につなげることで、そちらへインパクトを向けさせるという手腕。
サービス回を挟みつつも次の話の導入につなげる手法は確かに昔からよくあるといえばそうなのですが、そのエッジの効き加減は思わず記事を書きたくなるくらいには素晴らしいものでした。


かくして、次号からは新展開に突入。黒山の映画作りと並行して夜凪知名度更なるアップ作戦が繰り広げられるということで、堀くん……ではなく星くんことアキラくんも帰ってきて盛り上がりそうで本当に楽しみなのです。
アキラくんと母である星アリサの絡みが地味に好きなので、新章では描写があるといいなと期待しています。

終わりに

というわけで、本記事では黒山墨字のことばかり書いたのですが、とは言ってもヒロインは夜凪景です。
次の記事では、夜凪景に着目しつつ、より詳細にこれまでのストーリーを振り返っていこうと思いますのでお楽しみに。

そういえば記事タイトルにもした、アクタージュは黒山墨字の物語なのか、については一面からは間違いなくそう。でもやっぱりそれと同じぐらい夜凪景ちゃんが好きなのです、だから言い切りたくはないですよかっこよくは。