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漫画『片喰と黄金』感想 人との出会いが次の出会いのきっかけになる

『片喰と黄金』という漫画があります。かたばみとおうごん、と読みます。


表紙からはどんなマンガなのか分かりにくいですが、黄金という言葉が本作品の方向性をそのまま表しています。
黄金、すなわちゴールド。カリフォルニア・ゴールドラッシュで一発当ててやろうと女の子が頑張るキャッキャウフフする漫画……というわけではありません。

ゴールドラッシュで一発当ててやろうとしている女の子が主人公なのは事実です。
ただし物語は1849年のアイルランド、折しもジャガイモ飢饉と呼ばれる大飢饉が発生していた年から始まります。

アイルランドの農園の娘であったヒロイン、アメリア・オニールはこの大飢饉によってすべてを失っていました。
代々アメリアの家を手伝っていた家のコナーという青年以外の人間は、皆死んでしまいました。
死体漁りをしながら毎日をなんとか生きているというところから物語は始まります。
ja.wikipedia.org


世界史の知識が壊滅的なので本漫画で説明されている内容やWikipediaなどを改めて読んだりして勉強していましたが、アイルランドは当時イギリスに属していて、アイルランドの土地もイギリス系地主のものであったそうです。
農園を営むアメリアの家も例に漏れず、高い地代を払いながら地主に支払う農作物を作っていましたが、飢饉により地代が払えるはずもなく、土地を追い出されていました。

14歳にして壮絶な境遇に置かれているアメリアですが、彼女は移民として、アメリカ合衆国に向かうことを考えます。
そう、1848年に金を発見したという報せから始まるカリフォルニア・ゴールドラッシュ。ゴールドラッシュで一発逆転を狙い、大富豪になる、それがアメリアの夢なのです。

ここから先はもう少し作品の内容に踏み入っていきますので、ネタバレにはご注意ください。
なお幸運にもKindleでは現在第1巻が期間限定無料(3月いっぱい)だそうなので、お時間許せば是非に。おすすめです。


ささやかな幸せ

本作品の面白さがどこにあるかと言われると、やはりヒロインであるアメリアの心の強さというか、曲がらないその信念かなと思います。小並感ですが。
まだ14歳にも関わらず、自分以外は皆死んでしまった家の家長となったアメリアですが、失ったものが多すぎました。

ゴールドラッシュで一山当ててやると言い放った彼女に対して、物語冒頭助けた青年がかけた「ささやかな幸せを噛み締めて慎ましく生きていけばいい」という言葉は、少女に深く刻まれた傷を再び呼び覚ますには十分でした。

以下に引用するシーンはまさに本作品の最初の掴みのシーンである、と言葉にするのは簡単なのですが、初めて読んだ瞬間は本当にぞわっと鳥肌が立ちまして圧倒的にこの作品がもう面白いに違いないと思わせてくれるには十分でした。

たとえば次の年
豊作になったとして その先ずっと穏やかな暮らしを送れるとして
私たちの味わった苦しみは 
それしきのことで
到底賄えるものではない…!

大富豪です!!!
飢えも知らない 病気も知らない
子供も孫もその先もずっと なんの苦労も要らないような
黄金を掴みに行きます

漫画『片喰と黄金 1』 57-59ページより引用


特に「私たちの味わった苦しみは それしきのことで 到底賄えるものではない…!」という表現の仕方、言葉選びがすごく好きで、
それしき、からの到底、という言葉の繋ぎが最高ですね。何度読み返しても良い感じです。

物語の根幹はしかし上記に引用した言葉にすべて集約されており、道中でいろんな人に出会い苦難にも出会い死にそうになったときも、魂の奥底に刻まれた「絶対に幸せになってやる」という気持ちが湧き出してくるのです。

人との出会いが次の出会いのきっかけになる

多くの作品は誰かとの出会いが物語の展開のきっかけになるわけですが、本作品もその例に漏れず色んな人との出会いが物語を大きく左右していきます。
出会った人がその次の物語の大きなキーマンになっていることが多いのも特徴でしょうか。

ニューヨークまでの船旅で出会ったダラは、ボルチモアへの道を示しました。
ニューヨークで出会ったブッチャーは、アメリアたちが前に進む理由を改めて思い出させてくれました。
物理的に迷っていたアメリアを助けてくれた万次郎(これはアメリアたちが導いてあげたほうかもしれません)。
万次郎に助けてもらって正しい道に戻った先で出会ったマイルス一行、マイルスから教えられるボルチモアへの道そしてカリフォルニア黄金への道(実はボルチモアが王道の行き方の一つであった)。
ボルチモアで出会った同じアイリッシュの移民の夫婦、二人からプレゼントされる靴。本当の意味でのダラとの出会い。
カンバーランドへの道中で出会ったイザヤ、お金だけではなく「人を集めろ」という今後の重要な指針を示される。そして今後大きな助けとなるテッドとアンナに出会う。
イザヤのパトロンであるケンタッキー州のモラレス、コナーとの関係性を考え直すことになる奴隷達との出会い。
そしてオハイオ州シンシナティで出会う教師。

最終的な目的地はカリフォルニアで、その道中で様々の出会いや経験をしながら進んでいくというのがこの物語の根幹なわけなのですが、改めて関係性に着目して振り返ると、出会いが着実にカリフォルニアへの道に繋がっているということがわかります。
最終的な漫画のゴールまではまた道半ばといった進行度ですが、ここからさらに信頼できる仲間を増やしながらアメリアたちは進んでいくのでしょう。
それが今から楽しみで楽しみでなりません。

最新5巻では教師との出会いのところで終わってしまいましたが、ある意味まともなちゃんとした大人枠は貴重なので、この人は是非仲間になってほしいです。
ただ、教師の道に素直に戻るのが王道という感じもするので、またアメリアが導いてあげるターンなのかもしれません。万次郎を導いたように。

終わりに

なんとなしに読み始めた本作品ですが、何度読み返しても面白い作品で、自分の中ではもはや名作に入る部類です。
最近心が廃れているのもあって、心が強いアメリアを見ていると救われるところがあるのかもしれません。
読んで損はないので、ぜひぜひお手にとって読んでみてください。