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『ブルーアーカイブ』Vol.3「エデン条約編 4章 忘れられた神々のためのキリエ」読了 慈悲を願わずにはいられない

キリエ――Kyrie eleison――「主よ 憐れみたまえ」。

そんな言葉から始まる第4章を読了しました。
第3章の攻略に1ヶ月近くかかったのに第4章はたったの1日で読了できました。
テキスト分量の問題ではなく敵の強さの問題……いや生徒たちの強さのお陰でしょう。

忘れられた神々のためのキリエ


さて相変わらずエデン条約編のネタバレを含みますので、その点ご注意ください。
なお過去の軌跡は以下です。
thun2.hatenablog.jp
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Kyrie eleison

恥ずかしながら私はキリエの意味を調べるまで知りませんでした。
wikipedia*1をそのまま引用させていただくと、

キリエ(Kyrie)はギリシア語の κύριος(kyrios - 主(しゅ))の呼格κύριεをラテン文字で表わしたもので「主よ」を意味する。

西方教会でいう「キリエ」の祈りは、「キリエ」ではじまり三節からなる祈祷文である。といい、三節からなる祈祷文が「Kyrie eleison; Christe eleison; Kyrie eleison.」すなわち「主よ 憐れみたまえ / キリスト 憐れみたまえ / 主よ 憐れみたまえ」となる。


第4章では、サオリとミカ、二人のキーパーソンが物語を彩ります。
二人の境遇は「悔い」つまり後悔の物語に捉えたくなりますが、4章のテーマは憐れみそして慈悲だと思います。この点が、感動したところです。

一度読み終わってから気になったところを読み返していましたが、慈悲がテーマとなっていることがありありと分かる描写が多く、なるほどなと唸らされました。


サオリとミカは、幸せになることを諦めているようでいて、きちんと心を紐解いていくと誰かの助けが必要であったことが分かります。
幸せを祈らざるを得なかった、自分のやってきたことを受け入れつつも慈悲が欲しいと願わずにはいられなかった、それほどまでに苦しい境遇でした。
そんな苦しさが描かれる4章で、重いですし心を動かされました。

サオリの過去

ベアトリーチェの言葉を信じ、ただ前に進むしかなかったサオリ。ヒヨリやミサキを守るために、正しいと信じてやるしかなかった過去が明かされました。

幸福を祈ることはしません、だから……

願わずにいられなかった


慈悲を願わずにはいられなかった。誰か、助けてくれと。こんな私を救ってくれと。
恨みでもなく、諦めでもなく、ただただ慈悲を願わざるを得なかったのです。なんと辛いことか。


辛い毎日に耐える意味は何なのか、聞かれても答えられない自分に悩んでいたサオリ。
その答えの一つがアズサだったのだと分かり、とてもとても苦しい気持ちになってしまいました。

「和解の象徴」
叶わぬ夢

……「和解の象徴」になる予定だった。

私は……アズサにそんな存在になってほしいと思っていたのだろう……。


そうやって送り出したはずなのに、アズサが「晴れやかで幸福に満ちた青空の下に」進んで行ったことを、信じられなかった。偽物だと言いたかった。

虚しさ
3章とは見方が変わりすぎる

だから、諦めて受け入れろ――すべては虚しいだけなのだから。

アズサ、私たちは結局幸せになどなれない。
よくわかっているだろう?――すべては虚しいものだということを。


自分(サオリ)から離れたからアズサは幸せになったのだろうと、疫病神だった自分を認めたくなかったのだと。
しかし結局は全てが嘘だったと至る。自分が全て原因だったのだと……。


重い。自分が自分が、の精神になっているんですサオリは。

これまで一生懸命にやってきたことすべてが否定されてしまうと、きっと心が壊れてしまう。
だからすがるしかなかった。慈悲を求めたかった、憐れみを求めたかった。
願わずにはいられなかった、「主よ 憐れみたまえ」と。

ミカはサオリに重ねた

正しく導ける大人
慈悲
ただ救いを願うだけ

私も、あなたのように……先生にもう少し早く会っていたら。
そうしたら……過ちを取り返せたのかな……って思ってた……。

これは当然の罰だと受け入れていた……
でも、やっぱり慈悲がほしいと、数えきれないほど祈った。

すべてが虚しいことばかりのこの世界で、ただ救いを願って苦しむだけだった……。

今の境遇は自分が受け入れるしかない当然の罰だと思い、しかしどこかでは幸せ、そして慈悲がほしいと祈っていた。
生い立ちは違えど、サオリもミカも同じ境遇であったことが明かされる。


この二人の強いところは、先生に導かれることできちんと次の一歩を踏み出せるように進んでいること。
先生がいなかったら、正しく導く大人がいなかったらどうなっていたのか。

ミカはサイコパスみたいなところがあるなとずっと思っていましたが、追い詰められすぎていたのだと考えると納得できるところもあります。
救いをずっと求め続けていたわけです。

大人のカード

ベアトリーチェは、先生の特別な力に興味を示していて執拗に問いただしていましたが、これに対して先生はとてもシンプルに答えていました。

生徒たちのための先生

私の能力、存在価値は「生徒たちのための先生」だと。

これは単なる言葉遊びではなくて、先生の能力に関わるところなのだろうと思っています。
生徒たちを正しく導き、最大の能力を発揮させることができ得る存在、それが先生なのではと。

「大人のカード」を切る際、メタ的にはなりますが私達は自分の育ててきた生徒を編成して戦わなければなりません。
自分が導き、無限の可能性を持った子どもたち生徒たちを信じること、それが大人であると。

だから、ベアトリーチェはその反対として描かれ続けます。
子どもは大人に搾取される存在である、と。

搾取
他者との接触は地獄である
小さな犠牲(Agnus dei)

お互いを騙し傷つけ合う地獄の中で、私たちに搾取される存在であるべきなのです!

他者との接触は地獄である……互いが憎しみ合うことで、その実在を証明しているに他なりません。

その過程での小さな犠牲(Agnus dei)は、仕方のないことです。


そして先生は、ベアトリーチェを打倒し、生徒たちが正しく前に進むきっかけを作る。
答えを出すのは自分たちであり、先生は環境を用意し助け、道を整備してあげるだけ。

決めるのは自分である
この姿を見るために

責任を負うのは、自分の人生そのものだよ、サオリ。


きっと先生は、サオリやミカが、これから自分で決めた道を進むを見て、先生冥利に尽きているのでしょう。
まずはその第一歩、アツコを助けられてよかったとほんとに思います。

ゲマトリアとは

さて、今回ベアトリーチェは結果的には「舞台装置」であったとゴルコンダに評されてしまいます。
メタ的でめっちゃゾクゾクしました。

「知らずとも良いもの」
ただの

あなたが起こした事件、葛藤、過程の数々……。
それらは「知らずとも良いもの」に格下げされました。

あなたは主人公どころか……先生の敵対者でもなく、
ただの「舞台装置(マクガフィン)」だったのです。


ベアトリーチェがあまりに簡単にやられたので拍子抜けした方もいるかもしれませんが、それは当然で、最初から彼女はただの「舞台装置」であったのです。
ゴルコンダは「格下げされました」と言っていたものの、最初から高い期待など持っていなかったのだと推察されます。ゴルコンダのシナリオ通りに進んだのでしょう。

今回の筋書き、台本はゴルコンダが描いていたと考えるのが妥当でしょう。ベアトリーチェさえコマとして使われていたのだろうと。
ただ、この一事を見てゴルコンダが黒幕であるとは言い切れないところが難しいところです。

ベアトリーチェ以外のゲマトリアはこれまで黒服・マエストロ・ゴルコンダ(デカルコマニー)・ベアトリーチェと登場していますが、4章で会話がなされたように領地を奪うことが1つの目的となっているようです。

領地を確保

黒服曰く領地は「私たちの計画に最も必要な存在」だという。

ベアトリーチェは違いますがそれ以外のものは先生を「理解者」になってくれるかもしれないと感じているところがあります。
彼らがそれなりに先生のことを理解しているとしたら、ゲマトリアが成し遂げようとしていることは支配、自分たちの手のひらの上で全て踊らす事ができること、なのかも知れません。
教育を悪用し他人を支配して洗脳するような、そういうことを成し遂げようとしているのかも、と。

もちろんこれはあまりに単純な推察なのでゲマトリアには真の裏の目的があるのだと思うのですが、ただの「力」だけではなく「土地」を奪うことを目的にしているということはそれなりに「影響力」のようなものを行使することが重要なのだと推察できます。
そういう意味で「教育」のような、場所が必要なことを進めようとしているのではと思うのです。

ゲマトリアとの戦いがこの作品の裏テーマだと思うので、Vol.4以降どうなっていくのかワクワクが止まりません。


目的のためには

「憎悪」は子どもたちを統制するための手段に過ぎず、「エデン条約」は守護者の力を得るための方法に過ぎず、「スクワッド」は使い捨ての道具でしかない。

しかし改めてベアトリーチェのせいで、サオリたちがただただ悲しい人生を歩むことになったのが辛いところです。
導く大人や環境が大事である、という当たり前のことが改めて描かれたのかなと。

4章は濃すぎた

さて、長くなってきましたが他にも4章で心動かされたところが多かったので、いくつか五月雨式に書いていきたいと思います。

不遇なナギサさん

真面目で一生懸命やっているものの空回りするキャラが定着しているナギサさんですが、4章でも詰められまくりで良き。

(ナギサのティーカップが震えてる……)
それでも祈る
見えもしない存在に縋る

「Kyrie eleisonなんて、名前も気に入らない。どうして見えもしない存在に縋らなきゃいけないの?」

口では言い訳じみたことを言いつつも、ちゃんと祈っているところが慈悲を求めていたということだったのだなと思う。

サオリの決意
サオリのスキル使用

戦闘で、サオリのスキルを利用できるようになるのが、サオリが自分の意志で前に進むことを決めてからというのが良きです。
こういう細かい演出をしているのが、ブルーアーカイブの素晴らしいところだと思いました(思わずキャプチャを撮っていました)。

ボロボロミカさん
ボロボロミカさん

ちゃんとぼろぼろになったミカさんの立ち絵があるのが素晴らしいです。
些細なところかも知れませんが、こういうこだわりがブルアカらしさだと思います。分かっていますね。
そしてこのボロボロであることが、直後の「ちゃんと綺麗にしてから聴聞会に参加してもいいよね!」に繋がっているのだから分かってますね。

マッチポンプ
「ミネ団長が壊して騎士団が治す」

まさに「ミネ団長が壊して騎士団が治す」という私たちのモットーですね!!
久しぶりの救護騎士団、本領発揮です!

圧倒的な強さを持つものを描くときに、壊すことは治すこととセットである、という描かれ方がすることは爽快ですよね。
最近「史上最強の弟子ケンイチ」という格闘漫画を読み返しているのですが、この中でも道場破りに来た敵をボコボコにした後に自分たちが経営している診療所に案内して診療費を稼ぐという描き方がされていたなとw

コハルちゃんマジ天使
慈愛の天使

ミカの私物で無事なものをちゃんと探し出して保管しておき、それをこのタイミングで渡してと伝えることができるコハルちゃん、マジで慈愛の天使過ぎません?
MVPまでありますよ。全部が終わった後に返すってこともできるのに、助けに行くタイミングで渡してと言えるところがコハルちゃんらしいというか。

謝罪
謝るということはなぜこんなに難しいのか

最後、ミカとセイアがお互いに謝ることができて本当に良かったし、じんと来ました。
エデン条約編はいろんなテーマがあると思いますが、ミカとセイアの関係性が落ち着いたことは一つ大きな前進だったと思います。

オチ
不遇アル様

最後の最後、オチにアルを持ってくるとは想像できませんでした。
「これが裏社会のやり方か」というサオリの言葉も定番ながら面白く、綺麗に笑って終えることができて本当に幸せでした。

終わりに、もしくは総括

エデン条約編が終わりましたが、Vol.2までと比較すると物語の核心に迫る内容が多く、非常に楽しめたというのが正直な感想です。

補習授業部という軽い日常から始まったと思ったら実は裏切り者をあぶり出すためのナギサさんの策略であったり、実はアズサがアリウススクワッドと大きな関わりがありあながち間違いではなかったことが発覚したり、アズサとヒフミに焦点が当たりタイトルのブルーアーカイブがコールされるエモエモがあったり、巡航ミサイルが登場してこれまでの世界観を壊してきたり、そしてサオリとミカの境遇が描かれベアトリーチェの策略を阻止する先生の力が描かれ、ゲマトリアの目的が徐々に明かされつつあり……。

盛りだくさんという言葉が似合っていたなと思います。

そして最後のセイアの不吉な予知夢を見ていると、いよいよ先生の核心に迫るやばい事件が起きるのだなと。
先生の本当の力や、ゲマトリアの目的が明かされていくのだと思うと今からワクワクが止まりません。


何度も言う通り、ブルアカは細かな演出にも非常に凝っておりスマートフォン向けアプリとしてのシナリオの描き方・表現方法は相当にレベルが高いと感じます。
ビジュアルノベルをプレイしていると、突然「なぜ自分はこんな辛い現実を生きているんだろう」と涙が出てきて死にたくなる時があるのですが、ブルアカはそれを感じさせてくれるところが多いです。

BGMと、キャラと、セリフと、いろんなものがぐっと混ざり合って閾値を超えたときに、突然胸が苦しくなって死にたくなるんです。
そういうことを感じさせてくれる力をブルーアーカイブは持っているなと、改めて感じたエデン条約編でした。