隠れてていいよ

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漫画『龍と苺』の面白さは成長と才能を見守ることにある

週刊少年サンデー』にて2020年から連載されている漫画『龍と苺』をご存知でしょうか。

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誤解を恐れずにいえば、本作は主人公の藍田苺(あいだ いちご)という女性の俺TUEEE将棋物語です。

龍と苺 (1) 第1話pp16より引用


まるで真剣師のような心持ちの中学生の藍田苺が、何年何十年も将棋の世界で戦っている棋士達に物怖じすること無く「けんかを売っていく・買っていく」様が描かれ続けます。

本作品を知ったのは半年以上前で、当時無料で読めた1巻を読んだっきりでしたが、いつからか続きを読み始めいつの間にかもう数十回と読み返すまでになりました。
将棋というジャンルゆえに知っていても読んでいない方、または知らなかった方もいらっしゃると思いますが、個人的には相当におもしろい漫画だと思っていてこの面白さをぜひ伝えたいと筆を執りました。

本記事ではネタバレにならない程度に作品の紹介を行います。ただし、第1話の内容には触れるため、ネタバレを完全にシャットアウトされたい方はお気をつけください。
第1話は上記リンクから無料で読めますので、ぜひぜひ一度目を通してみてください。

なお、本記事以降は各巻ごとに感想を書いていこうと思いますので、既読の方もお楽しみに。

本作品の魅力

つい最近また読み返しているのですが、その中で改めて確信を持ったことは、本作品が次の2点を軸に展開されていることです。

  • 藍田苺の成長
  • 藍田苺の才能

前者は、苺本人の人間性の部分です。
無料で読める第1話を見ていただくだけでわかるのですが、藍田苺は、真剣勝負でなら死んでもよいと考えるタイプの人間で、その考え方が破天荒な行動に直接現れています。
藍田苺は将棋を通して心も成長していきますが、根っこの部分は実は変わりません。ただし、分別を持てるようになっていきます。
あれほどめちゃくちゃだった苺がまともになってきてる! みたいなそういうカタルシスを随所に感じることができます。

後者は、苺本人の将棋の才能の部分です。
何年何十年と将棋を指している強者に対して、物怖じすることなく運・実力含めて勝利を収めていくその様は、才能という言葉でしか語りきれません。勝負強さも含めて才能だと思います。

龍と苺 (1) 第1話pp56-57より引用


成長と才能、この2つの魅力の後ろには「見守る」という言葉が付いてくるなと思っています。
これは1つには、私達読者が見守るということ。苺はどこまで行くんだろう、何をしでかすんだろうと、ストーリー展開に魅了されるわけです。

そしてもう1つは、本作品のもう一人の主人公であると言っても過言ではない宮村先生が「見守る」という意味です。
苺が通う中学校の元校長先生、現在はスクールカウンセラーという肩書で苺とはその縁で知り合うことになります。

苺が校内で暴行事件を起こしてしまったときに、話のきっかけづくりとして将棋を持ち出しました。
将棋はあくまでツールであって、宮村先生は苺と会話をすることを目的としていました。
にもかかわらず、話の途中でその将棋は勝負事となります、しかも命をかけての。

龍と苺 (1) 第1話pp17より引用

勝負を終えて宮村先生が感じたのは、苺のもつ底しれない才能でした。

勝負前は宮村先生も、周りの先生がいうように行き場のない力をとにかくなにかにぶつけたいのだろうという純粋な気持ちで苺を理解しようとしました。
しかし、勝負事に対して本気で命をかけるその姿勢と、今ルールを教えてもらった将棋で、言葉どおり一手指すごとに強くなっている姿を見ながら、苺の更生よりも才能を見てみたいという欲求が勝ったように思います。
生徒の可能性を見てみたいという気持ちです。これは、宮村先生が教師だからということもあると思いますが。

作品のバランスとスピード感

将棋の世界は他のスポーツと比べても運が絡む要素が殆どなく、実力が如実に出やすいと思っています。
それゆえに、フィクション作品での俺TUEEE具合を出すためには才能の設定が重要視されると思います。
やり過ぎ感を出さず、しかし才能だから許される……そういうラインというかバランスを上手く取るキャラや設定が重要になってくるのですよね。

個人的な感覚にはなりますが、『龍と苺』 という作品は将棋を知らなくても楽しめる作品だと思っています。
将棋のことを知っていた方がより楽しめることは事実だと思いますが、知らなくても楽しめる絶妙なバランス感覚と作品のスピード感があります。

ひとつは苺の勝負感・勝負強さという点を才能のひとつとして描いていること。
純粋に圧倒的な才能で将棋を理解していくだけではなく、独特の勝負術も織り交ぜながら戦っていくさまが痛快です。
最終的には将棋の勝敗に落とし込まれるとはいえ、その過程を、将棋を知らなくても楽しむことができます。

また、いくら苺が天才とは言っても、刃が立たない棋士の存在もバランスをとる上で重要な役割を果たしています。
単純な実力だけでは絶対に勝てない相手と対峙する苺が、針の穴を通すように戦略を練っていく様子は見るものの心を動かします。


もうひとつはスピード感です。この漫画の良さを上げてくださいといわれたら、間違いなく答えることのひとつです。

ディティールがないというわけではなく、この漫画は余計な描写を削ぎ落としてストーリーを展開させるのが本当に上手いです。
普通の漫画なら一局に数話は掛かるだろうという展開に、わずか1話、下手すると描写カットされて結果だけが出る場合もざらにあります。

この漫画で描きたいことは、将棋そのものというよりは、将棋を通して見る苺なんだということが伝わってきます。
はっきりした将棋の局面図が、あまり描写されないのもそういう意図を持っているのだと思います。


かように私達読者は宮村先生と同じように、苺という魅力的な人物の成長と才能を見守りたい気持ちになっていくのです。

終わりに

というわけで、ぜひ、皆様には一度手にとっていただきたいなと思う次第でございます。
次回以降は、既読者向けに1巻ずつじっくり感想記事を書いていきたいと思いますので乞うご期待です。