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漫画『宝石の国』 宝石たちは諦められない

5巻まで読み進めました漫画『宝石の国』でございますが、なんとまぁ考察したいことが多いこと。
考察という難しい言葉じゃなくても良いのですが、とにかく色々と考えたいことは多くてですね。
答えは語られず、登場人物の機微によって悟らせようとするその作品性が拍車をかけているように思います。

さて、本記事では5巻まで読んでみて感じた宝石たちの関係性について少し考えを深めてみたいと思います。
5巻までのネタバレを含みますので、その点ご注意ください。

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宝石たちの関係性

元々この作品は、誰と組むかといった関係性について言及が多かったと思います。
その上で、5巻では更に踏み込んだ説明や描写が多かったように思います。

  • ルチルの組んでいたパパラチア
  • ボルツと組んでみたジルコン、組ませたイエロー
  • これまで何度もパートナーを失ってきたイエロー
  • ゴーストとラピス・ラズリ
  • フォスとゴースト
  • フォスとシンシャ
  • アレキサンドライトとクリソベリル


関係性について考えている中で思い出したのは、1巻の時に感じた気持ちです。
宝石たちは必ず二人で一組だと、当初は思っていました。フォスが誰と組むのかということが最初に語られたので、
宝石たちは二人一組が基本なのだ、と強く認識していたのです。だから、人物整理のために自分用メモでコンビ関係を書き記せるようにもしていました。
ただし1巻ではコンビ枠は殆ど埋まりませんでしたので、実は必須じゃないという結論に当時は至っていました。

初期に書いていたメモの一部。左右に並べて書く準備をしていた


その後徐々に関係性が語られるにつれて、宝石たちは組んで戦うことが基本であるという認識に戻り始めました。
今パートナーが居なかったとしても、過去月に連れ去られているものも多いのです。
彼らはその相棒のことを今でも大事にしており、願わくば月から連れ戻したいと強く考えているのです。

5巻までの関係性を整理したもの
(ここには記載していませんが直接的に描かれていない実質パートナー関係もあると思います)


フォスが多少特殊であるとはいえパートナーを見つけることは難しいことだし、
逆に見つかるとそれはもうその相棒しか考えられない程にピッタリとハマることも多かったのではと推察します。
一部の例外を除き、パートナーが変わることは無さそうな描写が多いからです。

例外はイエローダイヤモンド。彼女は、戦い続けることを強いられていたのだと推察します。
そして、その度にパートナーを失い、徐々に心も失いそうになっていったのだと思います。

ジルコンを想いながらの吐露(2巻p145より引用)

ボルツを色んな人と組ませてみようキャンペーンが実行されているとはいえ、それが例外的に語られるぐらいには
これまでパートナーを途中で変えることはなかったのだと推察されます。

その理由は、先程も述べたように、関係性がピッタリ合うことは非常に稀であるということが大きいと思うのですが、
もう一つは、彼女たちが長寿であり、死なない(死ねない)性質だということも関係していると考えています。

「しかしこの性質のために私たちは何事も諦められないのですけれど…」

1巻の初期に語られるルチルの言葉。この言葉は今後重要なポイントになってくると初期から感じていましたが、5巻まで読むと改めて深みがあったのだと驚きます。
第一には、この言葉はルチル自身に言い聞かせていたものであったということです。
すなわち、パパラチアのことです。

ルチルがパパラチアの治療をずっと続けていたことが5巻で描かれるわけですが、とても困難な道だと語られます。もうダメだと、諦める道ももしかしたらあったのかもしれません。
しかし、本人が語る通り「…たとえ粉になり土に紛れ海に沈もうとも 仮死にすぎない」、だから諦められるわけがない。

パパラチアに関しては、言葉が適切かどうかは分かりませんが、延命治療に近いことをしていると思っています。
故に、パパラチアも諦めてほしいと思っているとフォスに打ち明けるシーンがあります。
ラクさせてやりたいんだ」と笑顔で語るパパラチアのシーンは、本当にとても笑顔なんです。
ルチルが諦めたら二度とルチルと会話ができないかもしれないという恐怖や悲しみもあるはずなんです、だけどそういった自分の気持ちを置いて、相手の気持ちを考えられる優しさを持っているのです。

パパラチアの優しい気持ちと笑顔(5巻pp26より引用)

ルチルだけではありません。描かれていない部分も含めて、きっとこれまでパートナーを月に攫われてしまったり失ってしまったりした宝石も多いのだと思うのです。
そして彼らは、諦められないんです。だって、可能性があるから。
可能性が1ミリでもあれば、そして長寿であれば、永遠に諦められない業となるのです。「業を背負う」という言葉そのままの通りなのだと思うのです。

フォスは最近、アンタークチサイトを月に攫われてしまいました。
自身の不出来が故に攫われたということもあり、ずっとアンタークチサイトを想っています、病的なまでに。
この後100年経ったとして、アンタークチサイトの事を忘れられるのかと言われたら、宝石には無理だと思います。なぜなら、永遠に可能性を追い続けられるから。
月から取り返すための努力を毎日続け、来ないかもしれないチャンスに賭け続けなければならないのです。とても強いし、とても儚い。

5巻の裏表紙には「強くてもろくて美しい、戦う宝石たちの物語。」と記載がありますが、宝石たちを端的に、しかし完璧に評した形容詞だと思います。

終わりに

結論はないのですが、改めて宝石の関係性について考えてみました。
まだまだ書き足りなかったり考えきれなかったりすることが多いので、合間を見つけては考えてみたいとは思っています。

物語が進むに連れ、1巻の当初からとても丁寧な関係性の描写がされていたのだなと気づく素敵さよ。素晴らしい作品です。